木地師とサンカは同じものですか、異なるものですか。

サンカについては、三角寛によってフィクショナルに創作されてしまった面が強く、実態はよく分かっていません。日本列島の非定住民・漂泊民については、かつて一部の民俗学者が構想したように列島の原住民であるわけでも、古代・中世から連綿と存在した「まつろわぬ者」の系譜でもないでしょう。領域国家の権力による圧力が高まってくると、その追及が希薄な山林地域へ一定の平地民が流出してゆくという現象は、各時代に確認できます。いわゆる定住型の稲作農耕とは異なる生業を持っていた人々、そのなかに基盤を持ちつつも狩猟や交易を生業に長距離移動をしていた人々に、そうした浮浪逃亡者が加わって、各時代の「非定住民」のイメージを形成していたのでしょう。サンカは、主に近代に至って、それらが官憲やメディアを通じて一般化されたものと思われます。木地師の集団は、樹木を用いて器物を製作する生業の人々ですが、必ずしも漂泊を前提とした人々ではありません。とくに中世後期以降、権門による山林の領有が進んでゆくと、それらの人々もそうした権力に連なりつつ一定地域で活動してゆくようになります。