中国や朝鮮に、皇族・王族が近親婚になった事例はあるのでしょうか。 / 当時の皇族は近親婚を繰り返して、何か身体的障害のようなものは生じなかったのでしょうか。 / 近親婚へのタブー意識は存在しなかったのでしょうか?
近親婚は、アジア地域に限らず、全世界に普遍的にみられます。王権との関係においては、やはりピュアイズム=純潔性堅持との関係が強いようですが、地域や民族における、時代ごとの個別の情況のなかで考える必要があります。一方で、近親婚がタブー視されていたことも確かです。それは、別段劣性遺伝を経験的に知っていたということではなく、女性を交換するためだったというのが人類学の定説です。すなわち、かつて移動生活にあった人類は、その小集団のなかで婚姻を繰り返すと、縮小再生産となりいずれは滅んでしまう運命にあった。そこで、他の集団から女性を得て集団の縮小を抑止するという文化ができあがってゆく。しかし、他の集団から女性を得るということは、自分の集団からも女性を出さなければならない、そうしないと無用な軋轢や対立、場合によっては戦争を招くことになる。そこで「近親婚のタブー」を作り、小集団のなかで婚姻を繰り返すことを否定し、外部へ転出させる文化を構築していったというわけです。多数の勢力がせめぎあうような政治情況においては、無用な対立・紛争を回避するために、政略的に婚姻関係をなすことが行われました。そうした環境下では近親婚は意味がなく、共同体的な罪としてタブー視されたと考えられます。中国や朝鮮ではそうした意味もあり、時代によって同性婚を禁じる仕組みが存在しましたが、藤原氏全盛となってゆく古代日本ではそのベクトルが弱く、皇位継承を安定的に行う血統の神聖性を構築するためか、ミウチ化を進めてさらなる結束を生み出そうとするためか、宮廷社会を中心に近親婚が繰り返されてゆくのです。