岩石感精の例のひとつとして日光感精を挙げられていましたが、日本で太陽神といえば天照大神で女性であり、精を授けられるのか納得がゆきません。

ぼくの話し方が悪かったかもしれませんが、日光感精の例を挙げたのは、自然物から感精して王を生む、英雄を生むというパターンの1例としてです。そのうえで幾つか付け足しておきたいのですが、まず、古代から現在に至るまでの時間のなかで、天照大神が男性と考えられた時期は存在しました。現在、奈良の長谷寺などに祀られている雨宝童子は、天照大神のことです。また、ぼくが調査対象としている伊豆稲取では、衣冠束帯の男神像を天照大神として祀っているお寺があります。『古事記』や『日本書紀』に書かれているので〈一般的〉なようにみえますが、天照大神=女神も多様な神話の語り方、あるいは多様な神話理解の1パターンに過ぎません。また『日本書紀』などには、天照大神以外にも、男性太陽神と思われる天照御魂神を見出すことができ、これは対馬や京都嵯峨野の木嶋坐天照御魂神社に祀られていて、海洋系の太陽神と推測されています。宮廷神話において、天照大神以前の皇祖神であったと推測されている高皇産霊尊高御産巣日神)は、生成のエネルギーを象徴する神格ですが、天照より上位から天孫降臨を指令する記述もあり、太陽神的性格も有しています。高皇産霊尊とペアともいえる神皇産霊尊が女神とすれば、高天の原に拠る神々の系譜自体が、日光感精から始まると考えることもできるでしょう。