地獄の絵図をみていて思ったのですが、地獄と鬼の概念は同時に生まれたのでしょうか。以前、鬼は鍛冶から生まれたとの話を聞いたことがあるのですが。

地獄の獄卒は、正確にはもともと鬼ではありません。中国の「鬼」という漢字は、もともと屍体そのものを指す象形文字で、転じて死霊もしくは祖先霊を指すようになりました。ヤマト言葉のオニの語源には様々な説がありますが、陰や隠の音=意味に由来するという見解が妥当かも知れません。共同体の外部から(あるいは他界から)やって来て人間に災禍をもたらす厲鬼と、死すべく定められた者を迎えに来る地獄の使者とが結びつき、やがて獄卒=鬼神というイメージが成立するのでしょう。日本人の大部分が連想する、短い角を生やして縞のパンツをはいた妖怪は、陰陽道の鬼門が丑寅の方角にあることから、牛の角と寅のパンツを持つものとして造型されたものです。なお、鬼の発生を鍛冶と結びつけるのは、『出雲国風土記』に出てくる「目一つの鬼」を製鉄民の反映と解釈する柳田国男説に由来しています。廬の強い炎光で目が悪くなってしまうこと、鞴で足を痛めてしまうことなどから、鍛冶の神は世界的に隻眼で足が悪い特徴があるようです。その真偽はともかく、鬼の成立はより多様に考えてよいようです。