草山が当時の人々の生活にとって必要不可欠なものであったということについて考えたとき、所有者は果たしてどのように決められていたのか疑問を抱いた。

概ね、個人所有ではなく入会地(共同体所有)です。共同体所有の土地と環境問題について考えた有名な概念に、ギャレット・ハーディンの〈コモンズ(共有地)の悲劇〉があります。どういう考え方かというと、例えば、複数の共同体成員が牛を放牧している牧草地があったとします。もし自分の土地であれば、牧草が食い尽くされてしまわないよう、牛の数や行動を調整します。しかし共有地の場合、自分が調整行動を取ると他の成員との競争に負けてしまい、損害を被るので、誰もが調整行動を取らないばかりか、できるだけ多くの牧草を牛に食べさせようとします。その結果、共有地は荒れ果ててしまうという考え方で、環境問題に蝕まれる現在の地球の縮図ともいえます。実際のところは、さまざまな共同体規制が働き、必ずしも共有地が破滅に至るとは限りません。しかし、授業でお話ししたような草山・芝山の事例は、幕府が課した禁令を破ってでも草山化を図る百姓もおり、結果として土砂災害などを頻発させているわけで、〈コモンズの悲劇〉に近い状態が出現しているといえるかもしれません。