2017-11-08から1日間の記事一覧

北條先生は、冒頭、トランプ大統領の訪日の報道について言及していましたが、日本人が政治に対して積極的に批判できるようになるためには、どうすればよいと思われますか?

現代社会を古代社会に直結するつもりはありませんが、列島社会では古代から、共同体の首長に政治を体現させる、共同体の成員は首長に共同体の運営を委託するといった傾向が強くありました。その根幹の部分は、恐らく近現代以降も変わっていません。すなわち…

どうして日本は、西洋のような時代区分を採用しているのでしょうか。

授業でお話ししたように、やはりドイツ流の実証主義歴史学を輸入したためです。マルクス主義歴史観において、天皇制の存在する日本は近世絶対主義だとみなされ、近代化を図るためにはまず資本主義革命を経過しなければならないとの議論もありました。そうし…

猫絵の殿様の話で気になったのですが、日本の江戸時代にはたくさんの藩があり、大名がいましたが、民衆の殿様に対する考え方が、なぜ地域によって全く違うのでしょうか。また、『王の奇跡』を読んでいないので分からないのですが、領主が宗教色を帯びるようになったのはなぜですか?

各藩は、それぞれ、近世前の在地の歴史的文脈を踏襲しているからでしょうね。日本列島の文化のあり方は、東/西でも大きく違いますし、そのなかでの地域性も非常に強い。現在でも、江戸期の藩の境界線を挟んで、隣接する地域の習俗が大きく異なる場合もあり…

マルクス主義は、他の国(例えば一見関係しそうにないオセアニアなど)では、どのような考え方をするのでしょうか?

西ヨーロッパでは、ソ連の誕生以降、共産主義・社会主義にもさまざまな派閥が発生してゆきました。社会民主主義などはその典型で、議会制民主主義などを採り入れた穏健な社会主義として広く浸透し、二大政党制の一党を担う状態になっています。オセアニアも…

以前、ジャーナリズムを教える大学の先生は左に偏っていると聞いたり読んだりしたことがあるのですが、それはマルクス主義史観と関係があるのでしょうか?

なきにしもあらず、ですが、まずあなたの「聞いたり読んだりした」ことが、「右に偏っている」ことも注意しなくてはなりません。左や右が何を意味するのかも慎重に見極めねばなりませんが、そもそもジャーナリズムは権力を監視するのが役割ですから、そうし…

マルクスは、社会主義の問題点をどう考えていたのでしょうか。

マルクスが生きた時代は、未だ社会主義国家は存在しません(正確には、その後も実現していません)。よって、マルクスにとって社会主義は理想の体制であって、問題点云々の埒外にある概念です。しかしその後の研究は、当然、「社会主義を実現しようとした体…

マルクス主義の歴史に対する考え方は、民衆独自の創意工夫で自由な歴史が作れるという国民的歴史学運動と呼応していたようですが、普遍的法則の部分とは相容れない気がしたのですが。

確かに、矛盾もありますね。マルクス主義内部での位置づけとしては、民衆の自由な歴史叙述活動は、まさに「イデオロギーに自覚的になり社会を変革してゆく」実践の一環と位置づけられたわけです。すなわち、皇国史観を捨てて科学的歴史学を学び、民衆の歴史…

現在の日本では、最後に到達するとされた共産主義にはならず、資本主義社会が形成されているため、現実との矛盾が形成されているため、マルクスの思想について学ぶことは意味がないのではないかと思った。

上にも書きましたが、資本主義の破綻は、誰の目にも明らかです。現在の課題は、社会主義に関する研究、政治的実験が失敗に終わったことで、資本主義のオルタナティヴが準備されていないことです。社会主義は未だ実現されていませんし、社会主義思想を再検討…

マルクス主義で、世界経済が最終的に到達すると考えている社会主義、共産主義は、あらゆるものを平等に考えるといわれるが、どこまでの平等を目指しているのか。社会主義=悪というイメージを持つ人が多いので、気になりました。

主眼は、富の再分配にあります。あらゆることが平等、つまり相違のない世界にする、というわけではありません。例えば、数年前に日本でもベストセラーになったトマ・ピケティは、資本主義は格差の拡大によって早晩破綻するとし、それを抑止するためには、国…

下部構造が上部構造を規定するのは分かるが、上部構造は下部構造を規定することはないのだろうか?

それはありえます。マルクスはそのことも指摘しているのですが、図式的な説明では、どうしても下部構造規定説を強調し、こちらをより根底的なものと捉えているわけですね。政治/経済の相互構築は、現実的には認められ、例えば経済制度を構築してゆくのは政…

経済というものはそれ自体で存在するものではなく、人間あるいは社会が様々に関係を持つことによって成り立っていると私には思えます。つまり、経済は人間・社会の意志によって成り立っているものといえると思います。なぜマルクスは、人間が自分の意志で政治・経済を動かしているという現代の考えを否定し、人間によって成り立つ経済を下部構造に置き、それが観念などを規定すると考えたのか不思議です。

一般的には、人間が自由に経済を作るとみられているかもしれませんが、学問の世界では、そうは考えられていません。とくに社会科学においては、人間は社会によって規定された存在と捉えるのが普通です。昨今では、グローバリズムに便乗して利益追求を図るモ…

戦前に流行していた皇国史観とはまったく異なるマルクス主義が、なぜ日本人の間にそれほど流行したのだろうか。この変化の要因は何だろうか。

戦時中における抑圧に対する反動が、最も分かりやすい説明でしょう。重要なことは学問の世界、学者の世界に止まらず、「下からの発展」を目指したマルスク主義的な見方が、社会に広汎に共有されていたということです。権利を再獲得した労働組合も盛んに活動…

日本でマルクス主義歴史学が席巻していたのは、自覚を持って掲げていたのでしょうか、それとも後世の分析でそう位置づけられたのでしょうか?

もちろん、自覚を持って掲げていました。みな、マルクス主義であることを標榜していました(しかし社会主義の実現をどう目指してゆくかについては、レーニン主義、毛沢東主義、無政府主義など、細かな相違は存在しました)。60年代の歴史の概説書などをみる…

マルクス主義は、唯物史観を基本的な考えとしているのでしょうか?

そうです。現在目前にある資本主義の成り立ち、問題点・課題を浮き彫りにするために歴史を分析した結果が、唯物史観という歴史観を創り出しました。マルクス主義の現在認識は、この唯物史観を基礎に成り立っています。