中島敦の「山月記」でも、主人公が虎になりますが、中国では虎はどのような位置づけをされた動物なのでしょうか。 / 結局、踵の有無というのは、どのような根拠なのでしょうか。 / このような話でよく虎や犬が出てきますが、身近な動物であったということですか。 / 自分たちの祖先を虎と考えていたトーテミズムは、転病という虎に変身してしまう病と、何か関係があったのでしょうか。

虎については、山岳に暮らす少数民族にとっては、やはり神であり祖先である存在ですね。ただし、農耕民化した漢民族の間では、虎に襲われる「虎害」が深刻化し、やがてこれらをほぼ絶滅に追い込むような掃討作戦を実行してゆくので、畏怖され忌避されました。しかし山の王者としての称賛は、両義的な意味で常にあり、龍と並んで王者のシンボルとしても用いられるわけです。「山月記」の原作は唐代伝奇小説ですが、この時期には、同じ漢文化の小説のなかで、「神の祟りを受けて虎に変身さえられ、300人を食い殺さねば人間に戻してもらえなかった」といった物語が多く作られてゆきます。少数民族においては尊ばれた「変身」も、漢民族においては理解できなかったのでしょう。また踵の有無の問題は、虎の後足の構造に由来していると思われます。踵を立てた歩き方になるので、「ない」ようにみえたのでしょう。なおなお、虎はやはり「身近」な動物ではありません。犬についても、これは獰猛な群れ(日本でいうヤマイヌのようなもの)なので、やはり身近ではなかったと思います。山中の危険にカテゴライズされる類のものでしょう。