実証主義歴史学への批判はかなり早くから出ているにもかかわらず、現代でも史学科の教育は実証主義的傾向が強い気がします。なぜでしょうか。

ひとつには、実証主義的研究のほうが早く成果が出やすいこと、もうひとつには、やはり学界において実証主義歴史学の力が強いということが挙げられます。しかし例えば、現在日本の大学制度のモデルになっているアメリカでは、実証主義的な教育方針を採っていません。学生はさまざまな方法論を勉強し、自らの研究対象に最も有効な方法を選び取ってゆきます。史料を一字一句疎かにせずに輪読してゆくといったゼミの方式も、日本だけではないかと思います。何らかの事実を求める科学である以上、実証が大切であることはいうまでもありませんが、それが実証主義である必要はありません。学生はもっと広い視野で、いろいろな方法や枠組みを勉強しながら史料に臨むべき、というのがぼくの立場です。しかし現実問題として、史学科に入学してくるような学生は、概ね理論・方法を勉強するのが苦手、哲学的志向が不得手、ということもあります。教員の意識改革も含めて、学生の需要を精査しながら、改善を進めてゆくべきでしょう。本授業も、その一過程だと考えてください。