レポートで『日本書紀』について書こうと図書館に行ったとき、『古事記』と比べて文献が少ないように感じました。この2つの史料に冠して、研究の進み方に違いはあったのでしょうか?
授業でもお話ししたとおり、古代においては、『古事記』は『日本書紀』を読むための参考書のひとつに過ぎませんでした。しかし近世の国学以降、中国に侵されていない純粋な日本を志向する立場から、中国正史の形式に倣い漢文で書かれた『書紀』より、ヤマト言葉の音韻を諸々に用いた『古事記』が重宝されるようになりました。また、『古事記』がひとつの統一的な神話の体をなしているのに対して、『書紀』が異伝を多く含み、また漢籍も多く引用していて、難解な箇所が多く存在します。そうしたことから、『古事記』の神話学的・神道学的な研究、啓蒙的な概説が多く出版されるに至ったのです。しかし歴史学においては、『書紀』研究の積み重ねは厖大ですし、授業でも紹介した森博達さんの本をみてもらえれば、その深遠さがよく分かると思います。とくに今年は、『日本書紀』編纂1300年へ向けて、すでに多くの出版物、論文集が刊行されています。ぼくの関わった専門書もありますので、ぜひ手に取ってみてください。