スサノオのヤマタノオロチ退治は、一体何を意味するものだったのだろうか。 / 『古事記』でアマテラスの弟、スサノオにスポットが当てられたのはなぜですか。

スサノオの神格の意味、起源については複雑で、諸説がありますが、台風や疫病などの災害を表象する神で、朝鮮半島や列島の日本海側にオリジンを持つ存在であったようです。『古事記』はそのスサノオを、アマテラスの弟に設定し、最終的に地上(豊葦原中津国)に降臨させ、黄泉国へ赴かせています。その数代後に誕生するオオナムチは、黄泉国に赴いてスサノオから種々の試練を受け、それを克服することで地上の王=オオクニヌシへと成長します。アマテラスの孫であるホノニニギは、このオオクニヌシから国譲りを受け、地上を支配する正当性・正統性を手に入れるのです。すなわち、スサノオは、高天の原と豊葦原中津国を媒介する役割を果たし、天孫降臨を実現するお膳立てを整えているわけです。そのスサノオによるヤマタノオロチ退治は、『古事記』全体のなかでは、やはり国譲りへ接続する意味を持ちます。舞台がのちにオオクニヌシの根拠地となる出雲国であり、退治したオロチの尾から取り出された宝剣=天叢雲剣が、天皇即位のレガリア=三種の神器のひとつとなるからです。ただしオロチ退治自体は、やはり諸説あるものの、概ね出雲の地の開発を伝える物語りと考えられています。斐伊川などは山中から多くの土砂を集め、かつて点在状態にあった島々を繋げて島根半島をなし、宍道湖を形成してゆきます。斐伊川河口の扇状地では、豊かな土壌によって水田開発が盛んに為されますが、同時にそこには、常に洪水の危機が存在しました。オロチのような蛇神は、そうした山・川を総体的に表象したもので、祭祀のありように応じてときに幸いをもたらし、ときに惨禍をもたらす両義的な存在でした。スサノオがこれを退治し、土地の女神であるクシナダを妻に得ることは、農耕の豊穣/災害の防遏を祈願していた祭祀形態を、蛇神=オロチを対象とするものから人格神=スサノオを対象とするものへ、転換したことを意味するのかもしれません。