アナール学派の「問題史」「全体史」が、いまひとつよく分かりませんでした。紀伝体と同じようなものでしょうか?

紀伝体は、中国正史に基づく叙述形式ですね。「紀」が歴代の王・皇帝の生涯を時間軸に、治世の出来事を年代順に記してゆくもの、「伝」が王朝に貢献した士大夫たちの伝記です。「問題史」は、あるテーマを設定しそこから歴史を捉えてゆく叙述形式で、通史と対称的な位置にあるかと思います。紀伝体も王、士大夫というテーマ・カテゴリーという意味では問題史ですが、こちらは〈視角〉ではなく〈枠組み〉に近いでしょうか。「全体史」は、これまで支配的であった政治史や事件史に対して主張されたもので、例えば日常生活史や心性史など、国家をも包括した社会の動きを、それらを規定付ける日常的実践のありよう、人間の考え方・感じ方などから総合的に把握しようとしたものです。フェーヴルを受け継いだフェルナン・ブローデルの大著、『地中海』『世界時間』などが好例でしょうか。