2011-10-01から1ヶ月間の記事一覧

斑鳩寺=法興寺というように、建造物には2つの名前を持つものが少なくないように思いますが、どうしてですか。

前者は地名で通称、後者はその寺の意義を示した名前で、こちらが正式名称ということになるでしょう。このほか、寺が大規模な存在になってくると、領域内に所属する中小の道場は○○院と呼ばれたり、僧侶の生活する施設は○○坊と呼称されるなど、名称の付け方が…

推古朝には神祇信仰が仏教とバランスをとっていたとのことですが、『書紀』の記述からその「史実性」を判断してもいいのでしょうか。

確かに、重要な指摘ですね。『書紀』推古紀の記事のみから判断するのは危険ですが、崇仏論争から三宝興隆詔へかけての文脈が仏教=国教化ともいえる勢いで書かれているのに対し、まず崇仏論争が虚構である可能性の高いこと(少なくとも『書紀』に描かれたよ…

文化財レスキューについて、塩分が黴を呼び込むという話があったが、放射能の影響はあるのかどうか気になった。

今のところ、放射性物質で文化財が損壊したという報告は聞いていません。ただし福島原発付近で立ち入り禁止になっている区域では、レスキュー活動を行うことが困難になっています。結果、救助も洗浄もされないまま、重要な文化財が朽ち果てていっている可能…

聖徳太子不在説が強まっているようですが、仮に実在を証明しようとした場合はどんな証拠が必要になるのでしょうか。

「実在を証明する」ということは、「非実在を証明する」ことと同じくらい困難です。仮に「真筆」がみつかったとしても、実在にまったく疑いがなくなるかというと、そうでもないでしょう。すでに死んでしまった人、そして今生きている人が生前の姿を記憶に留…

世界史の場合、日本の教科書には、日本の学会で認められたものが反映されるのか、それとも世界規模なのか教えてください。

学界における西洋史、東洋史分野の議論は、当然世界レベルでなされていますので、世界史の教科書にも世界レベルの知識が援用されています。ただし、各々の国での自国研究の方が、より敏感に微細な問題にまで議論が及んでいますので、それらの成果を充分に掬…

授業の最後で、学会の最先端の議論は不安定だから教科書に反映されないと仰っていましたが、どの程度の段階(学会の議論の段階)で教科書は改訂されるのか、気になりました。

それは、各社教科書の性格、執筆者たちの編集方針によってずいぶん変わってくると思います。極端な例でいえば、「つくる会」系の教科書など、思想以前の問題で、学界の水準がまるで反映されていませんし…。研究者であれば、ある程度定説化して動かないという…

技術や研究が発達して、歴史文献の歪曲や粉飾を発見することができるようになったのだと思いますが、学校で日本史を教える等の場合、真実と架空の話との境界線はどのように決めるのでしょうか。

歴史学が明らかにする過去の世界というのは、これは真実、これは虚構、と明確に区分できるものではありません。蓋然性の高い想定で成り立っているのです。個人的には、それを明確に説明したうえで、現在の定説として、具体的な事柄を解説してゆけばよいと思…

国生みにまつわる話で兄と妹が出てきますが、男尊女卑の表現のひとつなのでしょうか。 / 遺伝学的知識が普及するずっと昔から、なぜキョウダイ婚をタブーとする考えがあったのですか?

男尊女卑と決めつけてしまうのはどうかと思います。朝鮮半島などでは、姉と弟というケースもありますね。ただし、全体的には兄と妹が多く、これは例えば天皇と伊勢斎宮の関係にも似て、柳田国男によって「妹の力」と概念化されることになる現象です。その物…

洪水の予告が、なぜ「眼が赤くなる」ことで行われるのだろうか。なぜ「よくない」ことの象徴に赤色が使われるのか。

赤色はいわゆる境界的な色、他界との接点であることを表す色だといわれます。古代では朱や丹といった赤色顔料が辟邪の威力を持つものとされ、墓や寺院、祀廟などに用いられました。赤は、それらのものを象徴する色彩なのです。また、七〜八世紀に中国仏教で…

亀卜の亀裂の詳しい判断はどのように行ったのですか?

殷代のそれについては、亀裂の読み解き方はよく分かっていません。しかし司馬遷『史記』の亀策列伝では、卜兆の詳しい形状とその意味が数条にわたって記載され、同じような形式の文献は、清代の『卜法詳考』、雲南の少数民族納西族の東巴経典などに図入りで…

亀卜や骨卜は、日本では卑弥呼が始めたような印象があるのですが、もっと以前からあったのでしょうか。また、中国では男性が、日本では女性が占いの担い手のような気がするのですが、どうなのでしょう。 / 亀卜は太占の起源でもあるのですか?

鹿の肩胛骨を用いた骨卜は、日本では弥生時代前期から確認されます。卑弥呼より古い時代ですね。鹿の卜骨は、古代中国では山東半島を中心に展開しており、朝鮮半島からもみつかっておりますので、日本もそうした極東文化の一部に属するのでしょう。亀卜は古…

亀卜の「卜」の字は象形文字だと仰いましたが、亀甲から来ているものですから甲骨文字ではありませんか?

象形文字と甲骨文字とは対立する概念ではありません。甲骨文字は大部分象形文字の範疇に入るものです。そのうち卜占の「卜」の字は、鑽・鑿によって現れる亀裂の形を模写し、文字にしたものです。

占いに用いる亀は、川に行けば手軽に捕らえられるようなものだったのでしょうか。また、大きさはどの程度のものですか。

殷代に亀卜に用いられた亀は、主にクサガメやハナガメといった、せいぜい20㎝程度の大きさの亀で、黄河流域ではそれほど珍しいものではなかったと思われます。ただし、大量に使用したためか、南方の同盟部族や支配下部族から亀甲を輸入していたらしく、その…

亀は、神のような存在として捉えられていたのでしょうか。

神という概念が、キリスト教の神と同じようなものであるとすると、それには当てはまりません。アジアの神霊は精霊的なもので、ときには呪術的な力を駆使する人間に付き従い、奉仕をするようなこともあります。司馬遷の『史記』に載る「亀策列伝」には、亀卜…

古代の書物にこんなにも多くの動物が登場するのは、当時人間が自然と共生していたからだと思う。洪水伝説が多くの地域に残っているのも、当時の人々が自然の脅威を恐れ、敬っていたからではないか。

一般的にはそうみえますが、実はそうではありません。中国にしても日本にしても、古代からかなり大規模な開発や環境破壊を行っています。動植物の存在が現在の私たちより身近であり、彼らの文化を構築するために必要不可欠であったことは確かですが、そのこ…

亀卜で予言された結果は、必ず現実のものとなったのでしょうか。外れたとき、人々はその結果をどう受け取ったのでしょうか。 / 外れた場合、占いの担当者が処罰されるようなことはあったのですか。

もちろん、卜占が必ず未来を言いあてるとは限りません。しかし、例えば殷代の亀卜の場合は、王や王朝の権威を維持し昂揚させるため、作為的に的中したようにみせることもあったようです。卜辞には、占いの内容(貞問)を記した命辞、ひび割れ(卜兆)の意味…

亀卜や骨卜は、現代の私たちの身近にあるような占いと同じ性格のものなのでしょうか。国事を占うため、特別に神聖なものという位置づけだったのでしょうか。 / 占いが王や国家よりも権威を持つことはあったのでしょうか。

占いとしての基本は変わらないのでしょうが、やはり国家的機関に所属する官僚たちが行っていた正式なもので、権威は非常に高いものでした。卜占専門の機関の存在は、それこそ殷王朝時代から確認でき、それは王の直属で、ときには王自身がひび割れの形を占断…

そもそも、なぜ骨を使って占いが始まったのですか。 / なぜ亀甲の使用が主流になっていったのでしょうか?

もともとは供犠から始まったものと考えられています。つまり、神に対して犠牲の獣を捧げていたのが(火にかけて他界へ送るのはよくある方式)、残った骨の色やヒビなどで神がそれを受け容れたか否かを判断するようになり、やがてヒビの形で未来(神意)を占…

中国をはじめとしたいくつかの国が占いを重視していたことはよく分かったけれど、何故そんなに予言や占いを頼りにしたのでしょうか。

科学の発達した現代を生きる私たちにも、まだまだ分からないこと、判明していないこと、あるいはテクノロジーでは解決できないこともたくさんあります。現在でも占いがなくならず、毎日たくさんのメディアで扱われ、しかもそれを確認する人々が大勢いるのは…