2017-04-01から1ヶ月間の記事一覧

焼畑などを行う人々は、どれくらいの頻度で移動をするのでしょうか?

通常の焼畑の場合、ひとつの山を焼畑用に使用すると、30年経たなければ元の状態に再生しません(竹の焼畑の場合は10年ほどで再生しますので、周囲の環境、生態系のあり方によって多少の相違は生じます)。よって、それをひとつのスパンとして、一定の領域の…

「帰化」という言葉に差別的意味合いがあると仰っていましたが、現在使用されているものも差別的なのでしょうか? 日本に帰化した力士たちがいるという私の認識は、差別的なのでしょうか?

天皇の徳化に帰属すること=帰化という言葉を、そのままに使用していることが問題なのです。充分に検討して残したのではなく、古代的価値を再構成した帝国日本の用語を、無批判に踏襲しただけなのですから。現代のハワイやモンゴルの力士たち、日本国籍を取…

定住生活におけるフラストレーション、自然災害の圧力を除去するシステムとしての宗教や芸術、といった考え方は非常に興味深いのですが、逆にいえば移動民族は定住民族と比べそうした除去システムに依存する割合が少ないのでしょうか? / 定住のデメリットに病気とありましたが、遊動生活の場合は逃げるのみですが、定住の場合、病気にかかってしまうけれど、それに対する対策が生み出されるので、完全なデメリットとはいいがたいと思います。

そうですね、質問に述べられているような事象は定住社会のほうが被害が大きくなるので、それゆえに定住社会でそれを抑止するための機構が整備された、仕組みが考案されていったということです。なお病気の問題は、移動性社会においても必要な知識・技術は蓄…

移動により新しい環境に遭遇することで脳を活性化させられる、ということは、定住するようになった人類は、移動生活が主要であった頃に比べて劣ってしまっているのでしょうか? 

自然環境に柔軟に適応するという生物学的能力については、恐らくかなり退化してしまっているのではないかと思います。現在のヒトは、自然環境との間に種々の文化を設定し、それを緩衝領域として定着を図っている。季節の移り変わりに伴う服装の変化をみても…

人類は発展してゆく過程で、一箇所に権力を集中させ統治機構を作ってきましたが、それが失敗であったなら、無政府状態が人類文明の発展の形となるのでしょうか。

いわゆるアナーキズムの考えからすれば、そうでしょうね。クラストルもアナーキズム思想を持っていましたし、それを受け継ぐ人類学の流れは、例えば最近大著『負債論』が訳出された、デヴィッド・グレーバーらによって活発に研究されています。歴史学者も、…

狭い枠組みの話になりますが、日本には隠れキリシタンが存在し、集まって暮らしている地域や島などがありました。「隠れ」という呼称には消極性を感じますが、彼らが特定の地域に身を寄せ合っていた状態を、幕府などに「抵抗している」とみなすことは可能でしょうか。

もちろん、「抵抗」に当たります。本当に逃げるのならば、信仰を放棄すれば済むのですから。

「移動」という言葉の重要性に思いを馳せたとき、「移民」「難民」という言葉が去来しました。「移動」に基づいて考えると、これらの言葉にも、やはり差別的ニュアンスが生じてしまうのではないでしょうか。

確かに、「移民」「難民」は、受け入れる/拒否する側、すなわち外側からのニュアンスが大きいですね。事実、それらの人々がマイナスの価値を付与され、差別の対象となるケースは世界各地で起きています。列島の歴史を移動の観点から読みなおし、前近代村落…

性的マイノリティであったかもしれない(ありうる)自分について考えると、そうした差別を受けている人たちに対して申し訳ないと思ってしまう。しかしそれは自己陶酔であって、逆に性的マイノリティを傷つけるものだ、とネットでいわれたことがあり、引っかかっています。共感と自己陶酔とは何なのでしょう。

難しい問題ですね。ネット上でのその指摘は、あなたが抱いた「申し訳なさ」が、性的マイノリティーへの卑下に重なるのではないか、という危惧だったと思えます。確かに、今回お話しした「サバルタンは語ることができるか」という問題のように、ある言葉なり…

私の地元では、障がい者施設や関係の学園があり、小学校では同和教育、「人権を考える会」などの教育も繰り返し行われました。しかし、東京の大学に入って、周囲の友人に「同和」という言葉さえ知らないといわれ、とても驚いた記憶があります。関東では同和教育は行われていないのか不思議なのですが、何か理由があるのでしょうか。

確かに、東日本においては、西日本におけるような形での同和教育は行われていません。これは、一般的に後者のほうが、部落差別が苛酷であったことに由来すると考えられています。歴史的に被差別部落があり、地域の教育者の意識や関心の高いところでは、同じ…

今日の講義で、マジョリティのマイノリティに対する弱者排斥の意見が再び高まってきている、という話が出ました。それは具体的に、どのような身体的、文化的特徴を持った人々の意見なのでしょうか。

昨年の、相模原障がい者施設殺害事件を挙げれば、充分ではないでしょうか。「障がい者は役に立たないから、殺害するのが社会や家族のためだ」という犯人の主張に、ネットで賛同を表明する人も多く出ました。現在豊洲問題で逃げ回っている石原慎太郎など、「…

現代を生きるわれわれがアジア等に対し謝罪したところで、彼らは許してくれ、本当に友好的になるのだろうか。

難しいかもしれませんが、倫理的に筋を通しておく必要はあるでしょう。また、現在のアジア諸国間における歴史認識をめぐる険悪さは、それぞれの国々が政治的意図に基づいて扇動している面もあります。われわれとしては、アジア内で協力しあうべき一市民とし…

連累という概念にはある程度納得できた。他の国、とくにWW2における戦勝国などは、どのような戦後補償を行っているのか知りたい。

例えば、戦時中の日系人に対する差別的扱い、強制収容問題などが分かりやすいでしょう。一番の戦勝国であるアメリカは、1990年以降、大統領の謝罪の手紙を付け、個々の日系人に対し20000ドル(当時、約200万円程度)を支払っています。これは、現在どこに住…

アメリカの核廃棄物交渉局の先住民へのスタンスには驚いた。アメリカの先住民は長い間迫害されてきましたが、インディアン・カジノなどで優遇されているところもあります。現在のアメリカ政府は、先住民に対しどのような態度で臨んでいるのでしょうか。

2007年、国連で「先住民族の権利に関する国際連合宣言」が採択され、主に近代以降の帝国主義や植民地主義を通じて侵害されてきた先住民族の権利を回復し、維持してゆくための姿勢が加盟国へ要請されました。この採択に反対したのが、やはり国内に多くの先住…

言葉にすると誤解や偏見に囚われてしまいかねないのですが、東日本大震災関連の問題を筆頭に、マイノリティーや差別の問題は、ひとが「被害者」「加害者」「第三者」に分配されていると思います。「加害者」は「被害者」の苦しみを直視することが求められ、だからこそ「第三者」が「被害者」「加害者」のグレーゾーンに触れようとすると、アイデンティティの侵害とみなされる気がします。

「何も知らないやつが口を出すんじゃない」ということでしょうか。確かに、そういう現実はありますね。しかし、例えばいじめの問題でよくいわれるように、ある差別が現実化しているコミュニティーには、第三者は存在しません。被害を受けているひと以外は、…

私は東北出身ですが、今日の話を聞いて、あらためて「差別されてきたのだ」と自覚しました。自覚していない(あるいは、自分で無視している)差別とは、問題としてあるのでしょうか。

例えば、「東北は抑圧されてきた」という言説も、多様性な歴史・現状を持つ地域を一括りに論じる暴力性を持っています。東北のなかでも、抑圧の強い地域、少ない地域は存在するでしょうし、東北内部における差別問題もあるでしょう。被害を受けている人々が…

東日本大震災から、東北植民地論なる言説がまことしやかに囁かれているが、「裏日本」や「山陰」なる言葉があるように、日本の地方は少なからず大都市圏の「植民地」となるのではないか。東北だけを取り上げる現状には疑問を覚える。

まず、地方が大都市圏の「食いもの」にされているという情況は、以前から社会学などで指摘され、その偏重をどう是正するかという議論は、1980年代以降脈々と続けられているので、東北だけが取り上げられているのではありません。また、「裏日本」は差別的表…

ブラック企業におけるブラックの使い方が差別的であるというのは、確かだと思います。必要以上に喧伝されているのも確かでしょう。しかし、だからこそ反抗する術を持たなかった人々にスポットが当たり、是正の途上にあるのも確かだと思います。先生ならば、企業のいいなりになっているような弱者をどのように扱いますか?

質問の意図はよく分かるのですが、まず、「だからこそ」というあたりが引っかかります。劣悪な環境で若者を働かせる会社の実態が世間の知るところとなり、是正の動きが始まったのは、「ブラック企業」というネーミングのおかげなのでしょうか。確かに、社会…

ブラック企業という云い方が差別語だというのは、考えすぎではないか。また、黒という色彩を否定的にみるような日本文化の伝統と、関係があるのではないか。

ブラック企業という言葉の「ブラック」は、そもそもネット・スラングです。ネット・スラングには英米圏で使用されたものが日本へ転用される場合が多く、「黒企業」ではなく「ブラック企業」と表現されている点も、そのあたりの事情を反映していると考えられ…

差別や排除が問題であることには異論はないし、公共の責任や義務についてもきちんと考えてゆきたい。しかし、差別や排除はある意味で仕方がないことであるとも思う。異なる存在を無条件で受け容れるほうが難しい。それを理解したうえで、差別や排除を考えるのが重要。

現実をしっかりと見据えてゆかなければいけない、差別の問題をなくすのは簡単なことではない、という意味ではそのとおりですね。しっかりした、冷静な質問であり、意見表明であると思います。しかし同時に、「仕方のないこと」と考えているだけでは、何ごと…