2012-10-01から1ヶ月間の記事一覧
どんな学問でもそうだと思うのですが、狭いこと、細かいことを蔑ろにすると、大きなことを構想すること自体ができません。よって、しっかり学問を修めた人であれば、小さなことのひとつひとつをなおざりにしないはずです。逆に、それらを無視して大きなこと…
大学の教員と中高の教員とは資格も役割も異なりますので、参考にはならないのではないかな、と思います。大学教員の場合は、「教員になろう」と決意してなったという人は稀でしょう。学科の性質にもよりますが、大部分は研究者になろうとして修練を始め、そ…
不可能です。まず、世界中で常に起きている出来事を瞬時に記録し、その複雑な因果関係を整理し、文章化するという作業自体が、人間にはなしえないことです。よって、歴史学の営みは常に不完全であり、しかしそれゆえに、多くの人間が関わり、終わりなく追究…
歴史には社会的な機能があります。現在生じている様々な個人的、地域的、国家的、国際的問題は、すべて過去からの時間の流れのなかで、種々の事象が複雑に絡まり合って生じてきたものです。よって、解決の鍵、少なくともその前提は、常に歴史のなかにありま…
未来について考えることは、歴史学の重要な役割のひとつです。ただし、過去を批判的にみることと、歴史を過去に活かすこととは、二者択一でどちらの方が大切、といった秤にかけることはできません。どちらも大事なのです。なぜなら、例えば国家によって歪め…
前近代以上に情報流通が発達した現代、ある意味で、あらゆる事象が連動して起きているのだともいえるでしょう。かつてのアジア内での国際関係以上に、高大な領域での連鎖が成立していると思います。
これは日本文化、これは中国文化、という線引きは、ある意味では「文化は交流によって成り立つ」という事実を否認するものです。様々な文化との交渉、融合によって形成されたものならば、それを一国の名を冠したカテゴリーで語ること自体が問題でしょう。日…
よく事例として話すことなのですが、13世紀のキリスト教聖人伝『黄金伝説』には、聖ヒラリウス伝として、「ジェノバ近海のある島には、蛇が住んでいて土地の半分を占領していた。そこで、ヒラリウスがやって来て島の中央に「標の杖」を立て、ここから先は人…
オカルト的な意味で実在するかどうかは、検証のしようがありませんので分かりません。しかし、医療で実践されるプラシーボ効果のように、思い込みによって相手に精神的ダメージを与える、ということは可能でしょう。その場合は、「誰が誰を、どのような理由…
実際は、どちらか二者択一で議論するより、両方の要素が作用していると考えた方がよいようです。また、テクストを子細に検討することによって、どちらの要因が濃厚かはある程度判断できます。同じようにみえる話でも、そのテーマや構造だけが類似しているに…
「ちちんぷいぷい」は、18世紀の江戸期文献のなかに、「ちちんぷいぷい御宝」「ちちんぷいぷい七里結界」といった呪文として出てきます。一説には「知仁武勇」が訛ったものとされますが、どうでしょうか。春日局が徳川家光に語った言葉との、太田全斎『俚諺…
そうですね、例えば神戸地域に集中的に語られている「件」の都市伝説は、中国に由来します。「件」とはその字の構成のとおり、人面牛身の化け物で、世界の終末を予言します。元ネタは『捜神記』ですが、神戸から播磨にかけての地域は、古代から牛に関する史…
大いに議論があるところで、私自身も解決できていない問題が横たわっています。まず馬については、やはり洋の東西を問わず男性象徴として扱われることが多いですね。それはまず、馬が支配者層の使う乗り物であり、軍事に関わる存在であったことが主要因でし…
現在においても、高度に都市化・機械化した地域がある一方で、前近代的な風習を色濃く残した地域、共同体が存在しますが、古代においても、古代の古代、古代の近代ともいうべき地域、共同体が存在します。例えば異類婚姻について考える場合、古代の近代にお…
少なくとも、柳田国男は意識していたはずです。しかし、文献的な典拠よりも、遠野地域で神話が「生きて」いることに関心を持ったのでしょう。なお、柳田が喜善の話を意図的に改変した遠野の山男譚は、日本の先住民族が山の民となって生息しているという彼の…
授業で詳しく扱うこともあるかもしれませんが、実は馬娘婚姻譚は、『捜神記』のあと中国で多様に展開し、『遠野物語』に近い人と馬の恋愛物語も作られてゆくことになります。よって、『遠野物語』のそれが具体的にどの物語を典拠にしたのかは、もう少し史料…
『捜神記』が含まれる志怪小説というジャンルは、「怪異を志(しる)した書物」という意味です。これは歴史書の一種で、正史が国家の歴史を扱ったのに対し、個人に関わる歴史を扱いました。編纂にも、正史に携わったのと同じ史官たちが当たっています。『捜…
結局授業でもお話ししましたが、洋の東西を問わず、蛇のイメージの根源には、脱皮を繰り返す性質に由来する「死と再生」があります。古くメソポタミアのギルガメシュ神話では、人間に与えられるべき不死の力を奪った蛇が登場しますが、蛇が知の象徴となって…
中国では、このような数を「術数」といい、儒教や仏教、道教、陰陽五行説などのなかで、意味するところが様々に議論されてきました。まず「九」や「三」「一」ですが、奇数は陰陽五行でいう陽数であり、動物としては陰気に属する蛇に、プラスの性性を与える…
道教は漢代以降、民衆の圧倒的支持を得て拡大し、ときには政治的反乱の契機にもなってゆきます。病気の原因となる厲鬼を撃退する方法は、中国では紀元前から実施されていた同時代資料があります。長い歴史を経て、民間にも浸透していたでしょう。ことに、授…
まず「祟り」という認識自体が、8世紀の半ば頃にようやく成り立ってくるということを考えなければなりません。タタリはもともと神がタツ、現れるということで、神の意志の顕現をのみ意味していました。現在のようにマイナスの要素が強くなるのは、殷王朝時…
日本の祥瑞については、『延喜式』治部省式に詳しい規定が掲載されています。そこでは、祥瑞が大・上・中・下の4段階に分けられ、大瑞が景星(徳星)・慶雲・黄真人(金人・玉女)などを筆頭に60種類(麒麟・鳳凰・龍・一角獣などお馴染みのものも含む)、…
垂仁天皇陵ですね。『日本書紀』垂仁天皇三十二年条では、野見宿禰の提案によって、人間の殉葬を止め埴輪で代用することになったとのエピソードが語られています。これが、喪葬儀礼を担う土師氏の始祖神話になるわけですが、平城京が造られた大和国北部(菅…
律令国家の根幹にある儒教の「礼の秩序」は、君主を頂点、庶民を底辺とするピラミッド構造が社会的に維持されていれば泰平が続く、その階層が乱されると種々の災禍を生じると考えていました。よって、衣服の素材や形、色から邸宅の規模に至るまで、身分によ…