2015-04-01から1ヶ月間の記事一覧

花粉量の測定による気温決定の信用性は低いと思うのですが、それは他の方法も使用することで高められるものなのでしょうか?

花粉による古気候曲線はあくまで相対的なもので、絶対的な気温を復原できるわけではありません。しかし、多くの古気温曲線は、年縞から得られたもの、炭素同位体測定から得られたもの、海面清浄率から得られたものなどと比較してゆくと、細かな差異こそあれ…

炭素測定法は教科書でも勉強しましたが、花粉分析で年代が測れるとは知りませんでした。花粉は粉状なので、大昔と優劣なくしっかり残っているということでしょうか。

花粉分析は、時代の測定というより、その時代の古気候や、植生を復原するために用いられることが多いです。花粉のなかには分子構造の強固なものもがあって、1万年を経過してもいかなる植物の花粉が同定できる。そのことによって、周辺にどんな植物が生えて…

前期旧石器時代は、中国における夏王朝のように、何かの伝説や古い書物で、それに関する記述はないのでしょうか。

中国は殷代より確実に分節文字が発展してゆき、記録が残りますが、日本列島の文字記録は5〜6世紀における漢字の伝来・消化を待たねばなりません。いわゆる口頭の伝承は存在したはずですが、その正確からいって、1万年前の伝承がそのままの形で伝わってい…

捏造事件で出土した石器がなぜ偽物とされるまで時間がかかったのか。

やはり、彼の学界における地位と期待、それに伴う権力の強さ、また彼を取り巻く東北社会の期待の強さが、充分な検証を行うことを鈍らせたのでしょう。実は、藤村氏の業績を疑う見解は、以前から根強く存在したのです。「まさか捏造まではしていないだろう」…

捏造事件の話のとき、「東北は関東の植民地」という話がありましたが、古代の蝦夷やアイヌの件なら分かりますが、現代ではどのような点で植民地といわれているのでしょう。

東日本大震災後にいわれたのは、やはり原子力発電所の問題です。現在日本列島に設置されているプラントの4〜5割が東北地方に存在し、地域別の割合ではトップになっています。原子力発電所の設置に関しては、もちろん多額の補助金や雇用が発生するわけです…

赤い顔の地蔵の話ですが、地蔵を信仰していた老婆のみが助かるという別バーションの話があります。同系統と考えた方がよいですか、それとも後世の勧善懲悪的な改作なのでしょうか。

昨年の特講は、まさにその伝承を扱ったものでした。参考文献にあげた私の論文が、後漢代の『淮南鴻烈解』を初見として中国全土、朝鮮半島、そして日本列島へ広がった伝承が、地域の事情や時代情況によってどう変容してきたかを追跡しています。つまり、信仰…

八百比丘尼の話は、中国の媽祖などと関係がありますか。

確かに、怪しいところはありますね。媽祖は神仙思想とも関わりがありますし、海難守護で漁業との関わりも深い。父親が死に、放浪し、仙人と出会って神となるあたり、全体的な構造が八百比丘尼のそれと類似しています。環東シナ海文化として九州や琉球には確…

関の姥さまの信仰は、なぜ千葉に多いのでしょう。また、「咳の病」は結核を連想させますが、具体的にはどういったものだったのでしょうか。

本当に千葉に多いことが確認できるのか、他地域に比べてどうなのか、ということはきちんと調べなければなりませんが、相次ぐ戦乱のなかで姥神の縁起が生まれやすかった、ということは一因と考えられるでしょう。千葉氏の平家物語である『源平闘諍録』から『…

八百比丘尼像の持物である椿が気になりました。花がまるごと落ちるので首が落ちるようで不吉、と聞いたことがありますが、葉の方に注目が集まったのでしょうか。

確かに、その類の伝承は列島中に広がっています。しかし、江戸初期には公家や武家の間で椿のコレクションが流行し、徳川秀忠もコレクターのひとりでした。「首が落ちる」系の忌避の傾向は、もう少し後の時代に、武家文化の定着と一般化のなかで生じたもので…

『信貴山縁起絵巻』の道祖神について、女性象徴の方は手厚く祀られている様子ですが、男性の方はそうではありません。何か理由があるのでしょうか。

あの一例からだけではなかなか難しいのですが、『信貴山縁起絵巻』の演出も考慮しなくてはなりません。下巻は、主人公である寂蓮法師の姉尼公が、弟を訪ねて奈良の都周辺を歩く内容です。すべての場面で、尼公の行動がクローズアップされています。紹介した…

1748年の『宮古島旧史』は、どのように形成されたのでしょうか。当時の琉球では琉球語が用いられていたことを考えると、どう調査し編纂したのか気になります。

これは説明が足りなかったですね。西村捨三は明治に沖縄県令となった人物で、彼が調査を行った際に発見した1748年の『宮古島旧史(旧記)』を、底本として史料として掲出したのです。実際の成立過程は少し複雑で、「忠導氏おやけ家の大主」なる好古博学の長…

『医心方』にはさまざまな医術に関する記載があると仰っていましたが、当時不治の病とされた病気はあったのでしょうか。またあったとしたら、その治療には祈るしかなかったのでしょうか。

これから追々話をしてゆくことになりますが、もちろん不治の病と考えられたものは多くありました。それに対してはいかに予防するか、感染するものである場合はいかにそれを防ぐか、悪化させない方法は何かなどが探究されてゆきます。もちろん、古代の医術は…

男女一対が基本とのことですが、地獄の入口にも奪衣婆と懸衣翁のコンビがいますね。遡ってしまいますが、ヒメ・ヒコ制度などとの関連はどうなんでしょうか。昔からのひとの意識には、そういった考えがあったのでしょうか? / 男女の生殖器崇拝というと子孫繁栄が目的であるように考えていたので、男女の仲が悪いという話には違和感を持ちました。

講義でお話しした事例は、折口や柳田の調査したものを参考にしていますので、どうしてもヒメ・ヒコ制、とくに男性は世俗政治、女性は宗教祭祀を担ったのだとする考え方に適合的になってしまいますね。現在の古代史研究においては、女性も世俗政治を担ってい…

当時はそれほど各地域間での交流や情報伝達手段は少なかったはずなのに、同じような価値観を持っていることに驚きを感じました。何か理由があるのでしょうか?

…と一般には考えられていますが、商品流通のことを考えてみてください。生活用具の材料となる物品の流通は、縄文時代の黒曜石を挙げるまでもなく、古い時代から確実にみられます。モノが移動するのですから、情報も移動するのです。また、列島社会は縄文以降…

観光地へ行ったときや日常で、先生が発見された道祖神のように、「あまり有名でないけれどいわくのありそうなもの」を発見しても、自分でどのように調べたらよいか分かりません。OPACで検索しても出て来ないようなピンポイントなものごと、造形物について知識を深めたい場合は、どのように調べたらよいでしょうか?

普通にネットで調べてみても何か引っかかってくると思いますが、まずはどのような用語で検索するかでしょうね。近くに説明板などがあればそれを利用すればよいですが、あとは地域・場所の名称、形態などをきちんとメモし、そのなかから特徴となる言葉を選ん…

石に生命が宿るとされ、地蔵などが例に挙げられたが、死者を祀る墓が石であることも関係あるのでしょうか。

仏像その他の素材として石が用いられるのは、やはり耐久性に重きが置かれたためでしょう。墓石に関しても同じことがいえるでしょうが、古代・中世では一般庶民に墓などなく、近世でもしっかりした墓石を持てるような人々は、社会的・経済的に上部の階層であ…

病や治療に関して、なぜ男性ではなく女性の像が多くみられるのでしょうか。

単純ですが、やはり生命を生むという力への畏敬の念が働いているのでしょう。いいかえると、実はそれだけ男性バイアスの強い社会であり文化なのだ、ということもできます。「原始女性は太陽であった」といういい方は、古代の女性尊重をいいあてたかのように…

八百比丘尼の話、面白かったです。私自身は、もしまわりの人々が死んでしまっても、悲しさよりも不老不死の憧れのほうが強いです。先生は不老不死についてどう思われますか?

それは、冗談とか嫌味とかではなく、あなたがいま本当に幸せだからだと思います。そして若いから。ぼくもそう簡単に死にたくはないし、生への執着は強い方だと思いますが、育った環境のなかで生命のはかなさ、死のありようは叩き込まれていますから、一般の…

人魚=女性というイメージがありますが、日本の伝説のなかには、男性の人魚も存在したのでしょうか?

日本における人魚の初見は、『日本書紀』推古天皇27年夏4月己亥朔壬寅条です。「近江国言していはく、『蒲生河に物有り、其の形人の如し』」。続いて同年秋7月条に、「摂津国に漁父有り、罟(あみ)を堀江に沈むるに、物有りて罟に入る。其の形は児の如し…

史跡・博物館見学のレポートは、寺院や寺社、日本史に関係のない展示でも構いませんか?

本当は「日本史概説」なので日本史を、といいたいところですが、グローバルな日本史を志向していますので、世界史関係の展示でも構いません。また「史跡」は、寺院や神社も含みます。時代は問いません。

世界史選択者は、日本史をこれまで詳しく学んできていません。授業とは別に、通史を勉強する必要はあるでしょうか。

この授業はあくまで概説ですので、お話ししたとおり、大ざっぱなところ、省略・簡略化せざるをえないところがいろいろ出てくるでしょう。そうしたときに、自分なりに予習・復習をしておかないと話が繋がらない、ということはありえます。参考文献も紹介して…

ご自宅のお寺の宗派が、法相宗→天台宗→浄土真宗と変わった、というお話をされていましたが、それはよくあることなのでしょうか?

長い歴史を持つ寺院で、畿内各宗派の本山には当たらないような地方寺院には、時折みられることです。とくに関東では、親鸞が北陸に流され、関東を布教して回った関係上、天台宗などから浄土真宗へ転派する寺院もみられたわけです。また面白い事例では、古代…

「桃源境」のお話をされていましたが、私の知っている表記は「桃源郷」でした。何か違うのでしょうか。

どちらの字も用いますね。「郷」はサトの意味ですが、「境」は土地・地域の意味で、あまり相違はありません。しかし、「辺境」「魔境」「秘境」などの言葉があるように、後者には人里離れたイメージが強い。伝説のなかの桃源境は、普通は辿り着くことのでき…

昨年度北條先生の「全学共通日本史」をとっていたのですが、授業のスタンスや内容は共通する点が多いのでしょうか?

スタンスは、ぼくの学問、もしくは日本史に向かう態度ですので、ほとんど変わりません。しかし内容については、大きな相違があります。「全学共通日本史」では、まず日本史学の成り立ちについて近代史のなかで考え、教科書と研究とが乖離するトピックを、幾…

国家とはいかなるものかという最後の言葉に目が覚めました。常識というものは、目を濁らせるものなのでしょうか?

いわゆる「常識」がどのように形成され、いかなる機能を果たしているか見極めることが大切でしょうね。例えば、多様な個体が共通の社会を営むうえでは、合意事項としての「常識」が有効な役割を果たすでしょうが、こと学問の世界のことになると、「常識」は…