2017-11-01から1ヶ月間の記事一覧

万世一系の日本と比較して中国は王朝交替があり、王族はいつも自身の保身のため、占いを重要視していたということでしょうか。

確かに、権力の発生するところには、必ず卜占も伴いますね。中国と日本では、王朝や領域、各種民族集団の規模も違いますので、単純に比較はできません。何より、日本で使われた卜占のルーツはほぼ中国にありますので、同一文化圏のなかの中央と周縁部と理解…

「言葉が違えば世界が違う」ということも納得しました。言霊というものは、日本独自の文化だからです。

残念ながら、言霊的発想は日本独自のものではありません。『旧約聖書』ヨハネ黙示録にも、まず言葉が誕生し、世界が作られてゆく様子が語られています。また、アニミズム(万物霊魂論)などの宗教的特徴が強い社会では、森羅万象にも人間と同じ精霊=生命が…

琵琶法師が行っていたことも、歴史を物語る行為に当たるのでしょうか?

そうです。平家語りや太平記語りは、歴史語りの最たるものです。現在文化人類学などでは、いわゆる実証主義の近代歴史学とは異なる基準で語られる、個々の民族集団の歴史語りが大きな注目を集めています。これは授業で扱った、近世以前の物語的な歴史理解に…

個人の偏向した主観こそ、彼しかなしえない洞察を可能にするとの説明がありましたが、歴史の解釈はそれぞれ異なっていてよいのでしょうか。

授業でも話をしましたが、歴史学が学問であることの証明として、史料を通じて必ず過去へ方向付けられること、反証可能性を持ち学界はもちろん社会へ開かれていることがあります。すなわち、個々人の主観は、まず史料により放縦な解釈を誡められ、そして他の…

言語論的転回のところで思ったのですが、赤インクで「あお」と書いて、「何色ですか」「何と書いてあるか」と訊かれて迷ってしまうのは、色として目から入ってきた情報と、言葉として自分たちが理解している情報が異なるからなのでしょうか。

正確には違うだろうと思います。上記のような迷いが生じるのは、その問いが、文字の色を回答として求めているのか、それとも文字/言葉の意味するところを回答として求めているのか、明示されていないからに過ぎません。言語による世界の分節というレベルに…

実証主義歴史学では、経験によって価値のある文献と偽書とを読み分けるという話があったが、それは完全に職人的な第六感なのでしょうか。

経験的に獲得した知識も、ある程度までは整理して秩序立てること、洗練して理論化することも可能です。しかしそれが、多くの経験的知識によって支えられている限りは限界があり、例えば例外的な事象には対応できない、これまでの知識に基づき推測することし…

日本では、言語論転回による実証主義批判に関する議論は振るわなかったとのことだが、その原因がよく分からなかった。 / 実証主義の理論を持たない歴史学者について、真偽は経験をもとに測られ、議論は歴史哲学分野に丸投げしてしまったとのことだが、歴史哲学分野には理論があったのだろうか?

まず、実証主義歴史学には理論が存在しませんので、多くの専門的歴史学者は理論を学んでいません。とくにマルクス主義が崩壊して以降は、理論に対する忌避感が強くなった面もあり、とにかくできるだけ多くの史料をできるだけ深く読むことに、歴史学教育の主…

歴史はその時代を照らして叙述されるとあったが、それと同時に歴史は過去から繋がっている。そのような意味で、歴史の物語り論がいまいち理解できませんでした。 / 実証主義への批判としてなされた、歴史が一定の形式を持つナラティヴである、ということがよく分かりませんでした。

歴史が物語られるとき、そこに含まれるさまざまな要素、例えば登場人物(過去の人物)やその事跡、過去の事件などが、何らかの形で過去に起源を持つことは間違いありません。しかしそれをどのように語るかといったことは、時代情況の大きな束縛を受けるわけ…

性犯罪の被害を受けた人々が自分を責めてしまうのは、日本特有のことなのでしょうか? / 女性差別の話について、なぜ日本は女性の社会進出が遅れているのか、私が考えるのは、儒学・朱子学の名残が女性の社会進出を妨げているのではないか、ということです。「妻は夫に従い、子が育てば子に従う」という昔ながらの価値観が、現在の女性の全般的な苦痛に繋がっているのではないでしょうか。

世界にも、少なからずある/あったと思います。授業でもお話ししたとおり、これは、社会における女性の地位の未確立と関係があります。社会の構成員が、子供のときから、何を直接いわれ、何を間接的に聞かされて育っているか。人間は自らを社会に適応させよ…

骨卜に用いる動物自体には、宗教的な意味はないのでしょうか。

もともと獣骨を熱して行う骨卜=熱卜は、炎を用いて獣を神々に供犠した際、燃え残った骨の色やひび割れの具合で、神がそれを受け容れたかどうかを判断したとこに起源するといわれています。ゆえに狩猟採集時代の鹿、牧畜時代の牛や羊は、神霊に捧げられるも…

ヨーロッパ人がさまざまな生物種を「新大陸」に持ち込んだのに対して、逆に「新大陸」の側からも多くの生物種が持ち込まれたと思うのだが…。

ヨーロッパが「新大陸」に持ち込んだものは意識的・無意識的なものが混在し、後者の方が大きな効力を発揮して生態系を改変していったと考えられています。しかしその逆の場合は、「持ち込んだ」というより「搾取した」「奪った」ということでしょうね。それ…

日本には、農耕原罪論的な要素は見出せるのでしょうか。それとも何もないのでしょうか。

死体化生による穀物起源神話が、単に死んだ神の遺体から穀物が発生するのではなく、殺された神の遺体から生じるので、農耕への後ろめたさは、多少なりとも共有されているのだと思います。しかし、神話を文字として残した日本の古代王権は、農耕を推進して狩…

北條先生は、冒頭、トランプ大統領の訪日の報道について言及していましたが、日本人が政治に対して積極的に批判できるようになるためには、どうすればよいと思われますか?

現代社会を古代社会に直結するつもりはありませんが、列島社会では古代から、共同体の首長に政治を体現させる、共同体の成員は首長に共同体の運営を委託するといった傾向が強くありました。その根幹の部分は、恐らく近現代以降も変わっていません。すなわち…

どうして日本は、西洋のような時代区分を採用しているのでしょうか。

授業でお話ししたように、やはりドイツ流の実証主義歴史学を輸入したためです。マルクス主義歴史観において、天皇制の存在する日本は近世絶対主義だとみなされ、近代化を図るためにはまず資本主義革命を経過しなければならないとの議論もありました。そうし…

猫絵の殿様の話で気になったのですが、日本の江戸時代にはたくさんの藩があり、大名がいましたが、民衆の殿様に対する考え方が、なぜ地域によって全く違うのでしょうか。また、『王の奇跡』を読んでいないので分からないのですが、領主が宗教色を帯びるようになったのはなぜですか?

各藩は、それぞれ、近世前の在地の歴史的文脈を踏襲しているからでしょうね。日本列島の文化のあり方は、東/西でも大きく違いますし、そのなかでの地域性も非常に強い。現在でも、江戸期の藩の境界線を挟んで、隣接する地域の習俗が大きく異なる場合もあり…

マルクス主義は、他の国(例えば一見関係しそうにないオセアニアなど)では、どのような考え方をするのでしょうか?

西ヨーロッパでは、ソ連の誕生以降、共産主義・社会主義にもさまざまな派閥が発生してゆきました。社会民主主義などはその典型で、議会制民主主義などを採り入れた穏健な社会主義として広く浸透し、二大政党制の一党を担う状態になっています。オセアニアも…

以前、ジャーナリズムを教える大学の先生は左に偏っていると聞いたり読んだりしたことがあるのですが、それはマルクス主義史観と関係があるのでしょうか?

なきにしもあらず、ですが、まずあなたの「聞いたり読んだりした」ことが、「右に偏っている」ことも注意しなくてはなりません。左や右が何を意味するのかも慎重に見極めねばなりませんが、そもそもジャーナリズムは権力を監視するのが役割ですから、そうし…

マルクスは、社会主義の問題点をどう考えていたのでしょうか。

マルクスが生きた時代は、未だ社会主義国家は存在しません(正確には、その後も実現していません)。よって、マルクスにとって社会主義は理想の体制であって、問題点云々の埒外にある概念です。しかしその後の研究は、当然、「社会主義を実現しようとした体…

マルクス主義の歴史に対する考え方は、民衆独自の創意工夫で自由な歴史が作れるという国民的歴史学運動と呼応していたようですが、普遍的法則の部分とは相容れない気がしたのですが。

確かに、矛盾もありますね。マルクス主義内部での位置づけとしては、民衆の自由な歴史叙述活動は、まさに「イデオロギーに自覚的になり社会を変革してゆく」実践の一環と位置づけられたわけです。すなわち、皇国史観を捨てて科学的歴史学を学び、民衆の歴史…

現在の日本では、最後に到達するとされた共産主義にはならず、資本主義社会が形成されているため、現実との矛盾が形成されているため、マルクスの思想について学ぶことは意味がないのではないかと思った。

上にも書きましたが、資本主義の破綻は、誰の目にも明らかです。現在の課題は、社会主義に関する研究、政治的実験が失敗に終わったことで、資本主義のオルタナティヴが準備されていないことです。社会主義は未だ実現されていませんし、社会主義思想を再検討…

マルクス主義で、世界経済が最終的に到達すると考えている社会主義、共産主義は、あらゆるものを平等に考えるといわれるが、どこまでの平等を目指しているのか。社会主義=悪というイメージを持つ人が多いので、気になりました。

主眼は、富の再分配にあります。あらゆることが平等、つまり相違のない世界にする、というわけではありません。例えば、数年前に日本でもベストセラーになったトマ・ピケティは、資本主義は格差の拡大によって早晩破綻するとし、それを抑止するためには、国…

下部構造が上部構造を規定するのは分かるが、上部構造は下部構造を規定することはないのだろうか?

それはありえます。マルクスはそのことも指摘しているのですが、図式的な説明では、どうしても下部構造規定説を強調し、こちらをより根底的なものと捉えているわけですね。政治/経済の相互構築は、現実的には認められ、例えば経済制度を構築してゆくのは政…

経済というものはそれ自体で存在するものではなく、人間あるいは社会が様々に関係を持つことによって成り立っていると私には思えます。つまり、経済は人間・社会の意志によって成り立っているものといえると思います。なぜマルクスは、人間が自分の意志で政治・経済を動かしているという現代の考えを否定し、人間によって成り立つ経済を下部構造に置き、それが観念などを規定すると考えたのか不思議です。

一般的には、人間が自由に経済を作るとみられているかもしれませんが、学問の世界では、そうは考えられていません。とくに社会科学においては、人間は社会によって規定された存在と捉えるのが普通です。昨今では、グローバリズムに便乗して利益追求を図るモ…

戦前に流行していた皇国史観とはまったく異なるマルクス主義が、なぜ日本人の間にそれほど流行したのだろうか。この変化の要因は何だろうか。

戦時中における抑圧に対する反動が、最も分かりやすい説明でしょう。重要なことは学問の世界、学者の世界に止まらず、「下からの発展」を目指したマルスク主義的な見方が、社会に広汎に共有されていたということです。権利を再獲得した労働組合も盛んに活動…

日本でマルクス主義歴史学が席巻していたのは、自覚を持って掲げていたのでしょうか、それとも後世の分析でそう位置づけられたのでしょうか?

もちろん、自覚を持って掲げていました。みな、マルクス主義であることを標榜していました(しかし社会主義の実現をどう目指してゆくかについては、レーニン主義、毛沢東主義、無政府主義など、細かな相違は存在しました)。60年代の歴史の概説書などをみる…

マルクス主義は、唯物史観を基本的な考えとしているのでしょうか?

そうです。現在目前にある資本主義の成り立ち、問題点・課題を浮き彫りにするために歴史を分析した結果が、唯物史観という歴史観を創り出しました。マルクス主義の現在認識は、この唯物史観を基礎に成り立っています。