2014-05-01から1ヶ月間の記事一覧

シンデレラとシャーマニズムについての話があったが、他のグリム童話にもシャーマニズム的な要素があるのですか?

グリム童話とは、本来はグリム兄弟がドイツで収集し整理した民話・伝説の類を、子供が読むおとぎ話として改変したものです(そのプロセスについては批判もあるので、ジャック・サイプス『おとぎ話の社会史』〈新曜社、2001年〉など参照)。彼らの調査・研究…

ダンテの『神曲』は代表的な冥界訪問譚のひとつだと思いますが、これはその後のヨーロッパの煉獄思想に大きな影響を与えているといえます。とはいえ、ダンテ自身がフィクションとして書いたもので、読み手もそれを理解しているはずです。このことはどのように解釈すればよいでしょうか。

ダンテのような優れた芸術家といえど、時代や社会の規制から完全に自由ではありえません。彼の創作活動は、彼がその成長過程において学んできた種々の知識、経験に基づいて構築されたものです。よって、『神曲』に描かれた世界は、当時の時代・社会の産物で…

離れた土地で類似する神話・伝承がどのように発生するのかということで、同時多発的に起きた現象によって作られる神話・伝承もあるのでしょうか?例えば、スマトラ沖で自身が生じた場合、津波の被害は日本まで及びます。そこで日本とスマトラで、突然同じ話が生まれることなどはありますか?

広範囲に及ぶ同一の自然現象が生じた場合、それに関わる神話が多くの地域で語られ出すことはあります。日蝕を表象した太陽の消失する話、皆既日蝕に基づく有翼日輪の普及などはその一例でしょう。また、洪水による世界の滅亡と人類の再生を描いた洪水神話も…

自然環境との関連、植生の類似が文化の類似を生み出してゆくというのは想像できますが、例えば今日のお話にあったように、人間の邪魔をしに出てくる神が「蛇」であるというような、登場人物が一致してくるという事態は、伝播以外が原因の神話の類似ではよくあることなのでしょうか。

「蛇」は説明しやすいですね。蛇は、その脱皮をするという性質や低湿地に棲息するという生態から、前近代社会においては多く〈不老不死〉や〈死と再生〉の象徴、あるいは水の神などと捉えられています。とくに前者の性格は重要で、神話的世界においては、多…

文化圏論に関して、自然環境と普遍性との関連で照葉樹林文化論が掲げられていましたが、木が気候や土地を示すのに適しているからでしょうか。

とにかく、文化が構築されるうえで、植生が衣食住全般の基盤になるからですね。衣服はもともと樹木・草木の繊維から作られますし、食事においては根菜・野菜・木の実など、やはりその植生に基づく食べ物が提供されます。住空間が、樹木をその建材として用い…

デュルケームのところで、「神とは社会のことだ」といった論が出て来ましたが、神学の授業で「神概念がこの世から消えることはなく、消えたとしたら人間は人間として存在できない」との話が出て来ました。私は神というものにあまり実感が湧かないのですが、神の存在は不可欠なのでしょうか。

カミという名称で呼ぶかどうかは別として、何らかの超越的な概念は、確かになくならないかもしれません。というのは、人間がこの世界で生存してゆくために、自己を正当化する、あるいは防衛する材料・手段としてそれが必要になってくるからです。とくに、例…

シニフィアン/シニフィエの結びつきの恣意性についてですが、例えば人の名前も同じように考えられるでしょうか。子供に父親と同じ名前を付ける文化がありますが、このような場合、その人個人の実在はあやふやになってしまうような気がするのですが…。

子供に付与される時点での父親の名前をシニフィアン/シニフィエに分けて考えてみますと、シニフィアンには例えばドナルドという音声記号、シニフィエには父親の風采・言動・生涯など、ドナルドを定義づける種々の意味内容が相当します。このような「名前」…

神話と聞いて、梅原猛氏の「古代人は単にメルヘンとして神話を語らない。すべては政治的な出来事等をもとにしたものだ」との言葉を想い出しましたが、先生はどう考えますか?

梅原氏は、以前同じ雑誌に書いたことがありますが、先行研究に関する彼の不勉強さと、思い込みの強さはよく知っています。「神話はすべて政治的なもの」というのは、彼が国家レベルの神話、すなわち権力によって文章として残されたものしか対象にしていない…

古墳時代には、朝鮮半島にも日本にも同じような形式の墳墓がみられますが、弥生時代においてはどうなのでしょうか。

まず共通のものとして見出せるのは、支石墓でしょう。世界的にも朝鮮半島に最も集中している形式ですが、日本では縄文期の終わりから弥生時代の初めにかけて確認できます。四隅突出型も朝鮮に起源するとの見解がありますが、詳しいことは分かっていません。…

集落ごとの交渉はどのような形で行われていたのでしょうか。何を交渉材料として、どのようなコミュニケーション方法を採っていたのか気になりました。

基本的には交易だったと思います。経済社会学者のマルセル・モースが立証したように、前近代社会には贈与のシステムが存在し、贈与を受けた側には返済の義務が生じ、それが遵守されることで社会の平和が保持されていたと考えられています。現在の日本文化に…

弥生時代の戦争というのは、今と同様に首長が殺されたら負けるのか、それとも皆殺しが基本だったのか、勝ち負けの基準が分かりません。

殲滅戦は、攻める側にも被害やリスクが極めて高いうえに、敗れた集団を傘下におさめ、その構成員を奴隷化したり、水田その他の施設を接収したりと云った、自集団をより強化してゆくというメリットがほとんどなくなってしまうので、採用されなかったと思われ…

日本列島の戦争の起源は弥生時代にあるとのことですが、戦争がこの世の中からなくなることはないのでしょうか。

どうでしょうか。現在の経済・社会システムは、上層の階層や国々が下層の階層や国々から収奪することで成り立っており、貧富の差を拡大し、諸国間・階層間の摩擦を激化する結果をもたらしますので、それを解消するために武力行使がなされることは不可避であ…

弥生時代、鉄器は中国から輸入していたとのことですが、それほど頻繁に大陸と日本との交易が行われていたのでしょうか。また、日本は鉄器の輸入に対して、何を輸出していたのでしょうか。 / 当時の航海技術で海上交易を行うことは可能だったのですか。

ポリネシアでは丸木舟で太平洋を航行していますし、実際に海を渡って文物が往来していることは考古学的に確認されていますので、交易は行われていました。例えば朝鮮半島の南端部と日本列島の中国地方の間では、土器・漁撈具・農耕具などに至るまで物品のや…

『もののけ姫』の話題が出ましたが、鉄を作る集団は、自分たちで稲作をしたりはしなかったのですか。

難しい問題です。製鉄を行う際には、山を切り崩して砂鉄を採り、これを溶解するための登り窯丘陵斜面などに設けます。そして、周辺から伐採してきた樹木を薪炭材として高熱を生み出し、鉄を精錬してゆくのです。この作業は極めて専門的で、自然環境への負荷…

弥生時代には関東まで稲作技術が広まりましたが、それは西の方に住む人々が、新しい場所を求めて東へ移動したのでしょうか。

実際に移動する集団もあったと思われますが、集落間の交流や交易を通じて、稲籾や稲作の知識・情報が取引されたと考えた方がいいでしょう。イネは栄養価が高く、生産方法が定着すれば、狩猟採集よりも食生活が安定します。当初は狩猟採集との併用であったと…

90年代の歴史研究によると、日本人のDNAは中国雲南省の少数民族のそれに近いということでしたが、稲作技術は雲南から輸入された可能性が高いのではありませんか。

雲南は、照葉樹林文化論との関連からしても、日本と密接に結びついた地域です。しかし、人種的なDNAが近いからといって、それが稲作ルートに直結するわけではありません。また日本人のDNAについては、Gm ab3stを北方モンゴロイドの標識的遺伝子として調査を…

水田稲作の伝来ルートについて幾つかの学説が挙げられていましたが、それらはどのように導き出されたのですか。

近年では、稲のDNA分析が行われ、縄文時代に日本列島に入ってきた稲がどの場所で産出されたものなのかが確認されています。しかしそれは、あくまで原産地の確認であって、伝来ルートを導き出したことにはなりません。原産地から列島に至るまでの東南アジア、…

弥生時代の近畿地方で「縄文返り」ともいうべき現象が起こり、いまだに定説的説明がないとのことでしたが、仮説でも結構ですので教えてください。

弥生時代の灌漑システムは、具体的にどのような構造の、どのような機能を持つものだったのでしょうか。

2500年ほど前に北部九州に伝わってきた稲作技術の特徴は、例えば禰宜田佳男氏によって、イ)堰と水路という灌漑システムを伴っていた、ロ)乾田でも半乾田でも適応できる技術であった、ハ)機能分化した木製農具をはじめ新たな道具を伴っていた、ニ)水田稲…

雑穀・根菜栽培の畠が急速に水田化していったとのことですが、畠で何かを栽培して食べることはあったのでしょうか。どんなものを育てて食べていたのでしょうか。

例えば、弥生時代の早期に属する佐賀県菜畑遺跡では、コメ以外の穀物としてオオムギ・ソバ・アワ・アズキ、その他の栽培食品としてリョクトウ・メロン・ゴボウなどが確認されています。もちろん、縄文以来のクルミ・ドングリといった堅果類も食べられていま…

社会の変化に適応できずに滅びた集落などはあったのでしょうか。

これまでお話ししてきたような時代の転換期、社会の流動期に断絶し無くなってしまう集落は、数え切れないほど存在します。むしろ、弥生時代を通じて存続するような集落の方が珍しいといえるでしょう。気候的・社会的に安定した時期には概ね集落の存在期間も…

縄文時代は半定住の状態であり、山麓と水辺に季節ごとに住んでいたと以前の授業で聞きました。いま、縄文時代の集落として発見されているものは山沿いのもので、水辺にあったものが弥生時代の集落に変わったのでしょうか。

山麓と水辺の半定住状態は、縄文時代の初期の段階です。弥生時代への交代期には、その中間くらいの場所へ定住が進んでいました。確かに、縄文時代の集落が営まれていた場所に弥生のそれが連続する場合もあるのですが、全く新しい場所へ営まれることもありま…

稲作が文化・社会に影響を与えたというのはよく聞く話ですが、人々の身体に変化はあったのでしょうか。弥生時代の人々が、他の作物ではなく稲を選んだ理由が知りたいのです。

近年の見解ですが、稲作労働は腰を屈めた作業が極めて多いため、腰骨の変形を招き腰痛などをもたらしたと推測されています。狩猟採集生活と比較すると、栄養価は格段に高くなり、身体の成長や肥大化には繋がったと思いますが、運動としては偏った姿勢を強制…

弥生時代に入る前の大規模な伐採は、農業のために行われたのですか、それとも木材を利用するためですか?

授業でお話ししたように、縄文/弥生転換期の大規模伐採は、低湿地林で起きています。弥生時代に始まった稲作が灌漑システムを伴うものだったとはいえ、高燥な地域よりは、やはり水を得やすい低湿地が水田化の舞台として選択されるのです。授業でお話しした…

明治以降、キリスト教的な「人間が自然を征服する」という価値観のせいで環境破壊が進んだという説がありますが、先生はどう思われますか? / 北條先生の授業は環境と結びつけた説明が多い気がしますが、それは先生のご専門だからでしょうか?

キリスト教による環境破壊説を主張したのは、1960年代のリン・ホワイトが最初ですが、彼の指摘は正しい部分も、またそうでない部分もあります。キリスト教がアニミズムを破壊し、環境破壊の一要因を作ったのは確かですが、例えば神によって自然の支配を許可…

地質学上、日本での最も古い稲作の地層と朝鮮半島での最も古い稲作の地層とでは、日本の方が遙かに古く、稲作は朝鮮半島から伝わったものではなく、そのような認識は戦後の自虐史観から来たものであると読んだことがあります。これは本当でしょうか?

岡山県の彦崎貝塚から出土した、プラント・オパールの件ですね。戦後歴史学の成果を「自虐史観」として否定したい人たちからみれば、格好の宣伝材料であり、またナショナリズム的な優越感を満足させるに充分な意義を持つものでしょう。しかし、そうした形で…

AMSによる実年代計測で、弥生時代の開始期が従来より500年遡る可能性があるとのことですが、これが事実であるならば、土器の編年や中国・朝鮮との国際関係に関してもさまざまに見解が変わってくるのではないかと思います。先生はどのように思われますか? / AMSによる科学的な測定結果をすぐに採用せず議論になるということは、他にどのような反論があったのでしょうか。

厳密にいうと、弥生時代の開始時期がB.C.960〜B.C.915頃に比定され、早期・前期が大きく間延びする可能性が出て来たわけです。ご指摘のように、これまで積み上げてきた様々な議論との繋がりがありますので、その整合性をめぐる議論、抵抗が強いといえるかも…

縄文時代の終わりに祖先信仰が起こり始め、これを人間を神とする風潮と説明されていましたが、霊魂としての意識がなぜ神として信仰することといえるのか、その繋がりを疑問に思いました。

授業でもお話ししましたが、祖先信仰とは、もはや霊魂といった存在を超越したものです。死者の霊魂といった意識は、具体的な人骨が伴っていた環状墓域の段階では持続していたでしょうが、それでも集落内の諸族を結集する神的な機能を持っていた。それが骨を…

いざなぎ流神道についてですが、高知県物部村に、なぜあのような民俗信仰が残ったのでしょうか。

いざなぎ流神道を、古代の陰陽道に直結して考えるのは、どうも正しくないようです。近世には、列島の広範囲に「太夫」と呼ばれる民間陰陽師が活躍していましたので、その系譜に連なるものなのでしょう。また、四国や中国の山深い地域には、周囲との交流を最…

骨卜が未だ日本で行われているということに驚きを隠せなかった。現在それはどのようなあり方で実践されているのか、当初と変わらず呪術としてなのか、あるいは観光の一種としてなのでしょうか。

骨卜・亀卜は、それを最重要の卜占と位置づけていた中国においても、そのあり方を踏襲した日本においても、世界を把握するための最新の科学であったわけですから、現代的な意味での「呪術」という表現は、必ずしも正しくはありません。しかしそれが、古代以…