東京大学:宗教学宗教史学特殊講義(17秋)
そうですね。クマは、例えば中沢新一氏によって、最古の神の姿だといわれています。北方狩猟民の神話には、異類婚姻譚の相手としてクマが顕著に出てきますし、トーテム動物としても一般的です。ヨーロッパにおいても同様で、アーサー王の名は熊の古名であり…
とにかく、調べ始めたら関連するあらゆるものに手を出してゆくことですね。データベースも駆使しますし、文献を1頁ずつ丹念に捲ってゆくこともします。20年以上も研究をしていると、どのようなカテゴリーの文献にどのような記事が存在するか、不思議とだん…
実は、授業で扱った敦煌文書(S.4400「太平興国九年二月廿一日帰義軍節度使曹延禄醮奠文」)が、未だ日本の陰陽道研究ではしっかりと位置づけられていないのです。日本の陰陽師が用いた知識・技術が、漢籍をもとに日本で発展したものであることは確かなので…
古代ローマでは、鶏を用いた鳥占いが、要所要所で行われたようです。政治家としても文筆家としても名高いキケロの「占いについて」には、「ローマ人は、どれほど多くの種類の卜占の方法を受け入れて来ただろうか。まず最初に、この国の父祖ロムルスは、鳥占…
まず、個人レベルで使用しうる卜占に出てくる「戦争」は、やはり災害としての戦争なのです。自分にはまったく関わりのないところで発生した戦争が、自分の生活領域を侵蝕してくる。それをいかに事前に知るか、という問題になっています。しかし、『開元占経…
鳥の飼育の例はあります。野鳥が室内に…という占文は、「野」鳥であることが重要なんですね。つまり、野生/文化を峻別する儒教的認識において、その境界を超えて野生が文化に侵蝕してくる、ということが問題なのだろう、それゆえに「怪異」となるのだろうと…
授業でお話ししたように、いわゆる鳥情占に属するような書物は、正史に付属する目録類に幾つか確認できます。しかし、そのほとんどが長い歴史のなかで散佚してしまって、実体がつかめないのです。授業で取り上げた実例は、そうしたなかで何とか探し当てたも…
ありそうですね。個々人の呪術的実践ならば、いま思いつかないのですが、ありえたことだろうと思います。例えば東アジアから東南アジアにかけて分布する穀物起源神話には、鳥が天のクラから穀物を盗み出し、人間に与えるという形式のものがあります。鳥は地…
祥瑞や怪異に関するものは多少はありますが、王権の基盤を揺るがすほどのインパクトを持ったものはありませんでした。日蝕や月蝕のように、計算して声や動きを予測できるものではない、ということもありますね。
儒教や東洋史のみでしか中国の歴史・文化に触れることができない一般の日本人にとって、中国は漢文化中心の国にみえますが、必ずしもそうではありません。現在の中国が、広汎な地域のそれぞれによって異なる言語・文化・心性を持ち、また階層によっても感じ…
現在はよく似た形に整理されていますが、金文段階ではやや相違があります。「鳥」は本来尾長の鶏を表しており、長い尾が付きますが、「烏」にはそれがない。鶏冠もありません。また、烏字には縄に翼をかけた別の形も存在したようで、農地を烏に荒らされない…
それが可能であれば面白いのですが、『開元占経』は王権・国家が使用するための卜占であり、その大部分を占める京房などの占文は、多く経典研究のなかから導き出されてきた議論です。『以烏鴉叫声占卜』のような日常生活に密着した経典を精査し、うち経典か…
現在でも、科学的認識によれば起こるはずのない怪現象がまことしやかに囁かれ、都市伝説として社会に流通しています。私たちはそれを「ありえない」と笑いますが、100%否定することができず、どこかで「あるかもしれない」と信じてしまっている。それゆえに…
そうです。トンパ文字は解釈の幅が広いため、結局内容をある程度知っていなければ読むことができない。よって、師匠に与えられた知識の意義が大きいということになります。ぼくらは、東巴文化研究所の比較検討の成果として作られた辞書や、訳注全集の漢訳を…
神話などについては、文字成立以前の古伝承も存在したと考えられますが、その実態についてはよく分かりません。
古代中国の文献以来、卜占に携わる官職の者が、その占断の結果について主君から叱責される、あるいは責任を問われそうになる事例は幾つか見受けられます。しかしまず考えておかねばならないのは、凶兆を指摘する占断には、必ず何らかの修祓、凶兆を除去する…
確かに、権力の発生するところには、必ず卜占も伴いますね。中国と日本では、王朝や領域、各種民族集団の規模も違いますので、単純に比較はできません。何より、日本で使われた卜占のルーツはほぼ中国にありますので、同一文化圏のなかの中央と周縁部と理解…
もともと獣骨を熱して行う骨卜=熱卜は、炎を用いて獣を神々に供犠した際、燃え残った骨の色やひび割れの具合で、神がそれを受け容れたかどうかを判断したとこに起源するといわれています。ゆえに狩猟採集時代の鹿、牧畜時代の牛や羊は、神霊に捧げられるも…
ヨーロッパが「新大陸」に持ち込んだものは意識的・無意識的なものが混在し、後者の方が大きな効力を発揮して生態系を改変していったと考えられています。しかしその逆の場合は、「持ち込んだ」というより「搾取した」「奪った」ということでしょうね。それ…
死体化生による穀物起源神話が、単に死んだ神の遺体から穀物が発生するのではなく、殺された神の遺体から生じるので、農耕への後ろめたさは、多少なりとも共有されているのだと思います。しかし、神話を文字として残した日本の古代王権は、農耕を推進して狩…
民族社会の時間観念については、多く円環的であるとの分析は一般的にあり、神話や伝承、祭儀のあり方などから説得的に立証されています。太陽・月・星の運行、月の満ち欠け、季節の移り変わりなどからそうした認識が作られてゆき、〈死と再生〉という枠組み…
以前、樹木が伐採に抵抗するという伝承を、中国から日本にかけて集めていたことがありました。その抵抗の形式で最も多いのは、切り口から血が噴き出すというものです。これなどは、樹木を「人間と同じもの」と表象した結果、生まれる表現であろうと思います…
授業でもお話ししたと思いますが、ご指摘のとおり、アニミズムという概念は、地域的・時間的な多様性を隠蔽してしまう語句で、その使用法については注意しています。精霊を人間体で考えることは、アニミズム概念の重要な核で、これを前提に多様性や時間的推…
そうですね。そのあたりの葛藤を理解するための参考文献として、中国の某文化人類学者がペンネームで書いた自伝的小説、姜戎『神なるオオカミ』(講談社)を推薦しておきます。映画にもなりましたが、小説の方がずっといい。文化大革命の時期、モンゴルに下…
残念ながら、パースペクティヴズムを簡易に理解できる著作は、まだないといっていいかもしれません。通常の神話分析ならたくさんの入門書が出ていますが、今回の参考文献リストに載せた煎本孝さんや中沢新一さんの文献は、人類学的な神話分析の多様性を分か…
そうですね、分かりにくいのですが、私は逆であると考えています。つまり、対象をその視角から理解するという認識論が基底にあるために、他種・多種の視点を獲得しうるのでしょう。しかし、パースペクティヴィズムを持つ文化の構成員すべてがそうだというわ…
仏教だけではなく、神話学などでもそうなのですが、同一の尊格を扱った文献が複数存在すると、同じ存在を示していても表記が異なる場合が出てきます。例えば日本の神話では、『古事記』や『日本書紀』の間で、同じ神名でも表記が異なるので、その音を取って…
仏教は、輪廻のなかで生きること自体を苦しみだと捉えますが、その輪廻に生命を縛り付けている悪業のうち、最悪のものを殺生と捉えているわけです。仏教は生命の循環を維持しようと考えているわけではなく、そこからの離脱を最上としますので、殺生戒を設定…
面白いですねえ。厳密に定義すると、負債観の問題は、返済の意識を発動することが伴います。返済はたいていの場合、何らかの形で自然環境を表象する神格に、祭祀をなす形で果たされます。原罪認識自体も広い意味では負債感だと思うのですが、自らの存在を贈…
恐らく、1か0かということではなく、どちらも少しずつあるのが本当のところでしょう。幼児の自然に対する感応の力は、未だ自己/他者の分節が明解でないために強く生じるものです。教育はそのあたりをコントロールしつつ、重要な部分だけを発展的に伸ばそ…