2019-01-01から1年間の記事一覧

当時、使者を派遣する前に、対外情勢などどのように知ることができたのだろうか?

倭の五王による南朝劉宋への朝貢の時代から、倭の外交に渡来系の人びとが関与していたことは、文献によって明らかになっています。当時、朝鮮三国も頻りに劉宋へ使者を派遣し、将軍職を得て南朝の臨時政府としての位置づけを得ようと、外交合戦を繰り広げて…

東アジアの国際秩序としては、島国である日本は中国・朝鮮半島の下に位置していたと学習したのですが、なぜ日本は朝鮮に対して好戦的な態度を取っていたのですか?

いま問題としている7世紀までの段階では、まずは鉄資源を得るためという大きな目的がありました。古墳時代の倭国では、当時鉄素材を自ら生産することはできず、朝鮮半島の南部から交易を通じて獲得していたのです。よって、それらを調達できる豪族たちが権…

「和を以て貴しとなす」の〈和〉が日本人のアイデンティティーかどうかは分かりませんが、武士政権の多さはこれを否定するものではないと思います。「和」は「武」の対義語というより、チームワークを意味するところが大きいと思うし、江戸幕府は江戸幕府はどちらかといえば官僚寄りではないでしょうか。

重要な指摘ですね。これには少し説明が必要かもしれません。まず、確かに〈和〉と〈武〉は対義語の関係にはありません。東アジアの歴史的文脈においては、〈武〉の対義語は〈文〉です。と同時に、常に、〈武〉よりも〈文〉のほうが価値の高いものと考えられ…

今日お話しされていた「踊る猫」のエピソードで、修行した猫が超自然的な力を得るというのが、何かとても気になりました。『100万回死んだ猫』のように、不死になるということでしょうか。あるいは『人間になりたがった猫』のように、人間にグレードアップするための力でしょうか。

授業でもお話ししましたが、猫は、人間にとって、〈文化のなかの野生〉とでもいうべき位置を占めています。日常生活のなかで私たち人間と共生しながら、決してドメスティケートされてず、私たちのありようを根底から覆すような目線、力を秘めている。長生き…

授業の最初で神道政治連盟について話をされていましたが、男女共同参画に反対しているなど、現代的価値観からすると明らかにおかしいのに、誰も話題にしないのはなぜですか。

いえいえ、日本会議や神道政治連盟については、批判的に扱った書物もありますし、新聞記事やtwitterの書き込みも少なくありません。テレビでもときどき言及されていますが、テレビはとくに「本質的な政権批判がほぼできない」状態なので、一般に共有されにく…

理論を学ぶということは、論理学を勉強するということなのでしょうか?

必ずしもそうではありません。史料の読解を通じてある歴史像を組み上げようとするとき、あなたならどうするでしょうか。いくらたくさんの史料を読んだとしても、そこから社会の仕組み、その時代ごとの相違などを、復元することができますか? たいていの人に…

ゴジラが国会議事堂を壊したときに拍手が起こったと仰っていましたが、戦争が終わった1945年から10年ほどで、国民の考え方が尊皇から正反対に変わってしまったのでしょうか。

国会議事堂は、あくまで戦争を遂行した政府の象徴であって、天皇を象徴していたわけではありません。日本国民の多くは政府に対して憎悪を抱いていても、天皇に対しては別の見方をしていたと思います。それは、戦後昭和天皇が列島各地を旅して回った際、人び…

『ゴジラ』の解釈が取り上げられましたが、映画が、当時の社会風潮であったり、政治背景を反映しているといえるのでしょうか? 映画を研究の素材とすることに、疑問を持ちました。

映画は総合芸術ですので、その製作にはたくさんの専門家が関与します。作家、脚本家、音楽家、美術家、カメラマン、演出家、そして俳優たち。製作会社や配給会社、その映画が売れる、あるいは価値があると判断して資金や資材、あるいは人材を出すスポンサー…

授業の冒頭で言及されていた象徴権力ですが、貰った側が恩義に感じない場合も発生するのでしょうか?

象徴権力の発現の仕方は、ご指摘のように多様性があり、どんな場合にも同じ状態で作用するというわけではありません。確かに、相手が恩義を感じないことで、発動しない場合もありうるでしょう。しかし、こうした行為が社会のなかでなされることを考えると、…

アナール学派の「問題史」「全体史」が、いまひとつよく分かりませんでした。紀伝体と同じようなものでしょうか?

紀伝体は、中国正史に基づく叙述形式ですね。「紀」が歴代の王・皇帝の生涯を時間軸に、治世の出来事を年代順に記してゆくもの、「伝」が王朝に貢献した士大夫たちの伝記です。「問題史」は、あるテーマを設定しそこから歴史を捉えてゆく叙述形式で、通史と…

殺生功徳論は、単なる人間のエゴにしか思えません。人間は、一度肉のおいしさ、毛皮の温かさを知ったら後戻りできないと思うのですが、いかがでしょうか。 / 仏教的価値観の広まっていた当時の狩猟者たちには、殺生功徳論は生きてゆくために必要だったのではないでしょうか。 / 殺生功徳論について、生きているうちには自殺・他殺・随喜同業のどれかによって殺生をしてしまうので、彼らを殺してしまったからには自分が功徳を積み、報われるようにしなさいという思想ではないのでしょうか?

まず最初に、ぼくは、人間が反省と改善が可能な存在だと思っています。ぼく自身も、まったくの無知、傲慢な状態から、猛烈な反省を繰り返しながら、少しずつ前に進んできたと考えています。それを信じていなければ、学問も研究もできませんし、教育の現場に…

中国やヨーロッパの就業のあり方については明るくないのですが、利益を生む毛皮市場を選択している人々に、「屠殺を押しつけている」という言い方は言い過ぎではないでしょうか。

デリケートな問題ですが、まず講義の文脈を考えてください。中国やロシアの毛皮工場が環境保護団体から批判を受けている情況について、「一方的な非難は正しくない。グローバリズムの観点からいえば、中国やロシアの国内市場のためだけに、このような生産が…

ペットを飼っている人が、増えすぎて育てられなくなってしまうのを防ぐために避妊手術を施すことについて、どう思われますか?

まず、動物を人間の管理下に置き、愛玩用に飼育するということ自体に反対です。もちろん、愛玩用に交配された新種の生産、価値を上げるためのブリードにも反対します。他者としての動物を理解し、人間の傲慢に気付くために飼育するのであれば、可能な限り自…

反出生主義は、人間のエゴではないでしょうか。

客観主義的には、エゴだと思います。「生まれてこない方がよかった」と日々呟いているひとのなかには、死が目前に迫ってきたとき、必死で抵抗し生きようとする人もたくさんいるでしょう。しかし同時に、本当に塗炭の苦しみを味わっている人、そう呟かなけれ…

日本の妖怪ブームの火付け役は水木しげるなのでしょうか?

妖怪ブームは、近世以降何度か日本史のうえに確認できます。近代以降は、やはり明治の急速な近代化・西欧化、戦後の高度経済成長期など、社会・文化が大きく変動し、伝統的なものが揺るがされる時代情況で生じているようです。水木しげるの妖怪への関心は、…

マルクス主義を経て再評価された実証主義、のあり方がよく理解できません。

要するに、マルクス主義の理論、法則を重視する枠組みに批判が高まり、普遍的な抽象的な法則性よりも個別具体的なものごとの解明、すなわち実証が再評価されるに至った、ということです。個々の地域の特性を解明するためには、実証的な成果を積み重ねてゆく…

「上部構造は下部構造に規定される」というテーゼが本当なら、上部構造である私たちの思考が、下部構造に及ぶということは原理的に可能なのでしょうか。

うん、これは鋭い質問です。われわれが下部構造について語ることができるのは、マルクス主義的にいえば、イデオロギー批判を通じて社会の実相を捉えることができているためです。社会構造・経済構造、あるいは人間の認識の構造そのものによって、人間が考え…

なぜマルクス主義は、古代をそんなに敵視するのだろうか。マルクス主義が破れた結果、古代の遺産が残っているが、もしマルクス主義が勝って中世にすべて移行していたら、いまの日本はなかったかもしれないと思うとゾッとする。

うーん、難しいですね、これも大きな誤解です。お話しした唯物史観は、現在から過去の流れを捉え、古代以降の政治・社会・経済の変転を説明するための考え方なので、唯物史観が古代を破壊したわけではありません。確かに、政治制度が大きく変わったとき、新…

上部構造/下部構造の関係は妥当と考えるが、一方で、文章経国思想が支配した古代・中世では、一般民衆に生活の様子を記録するリテラシー能力がなく、権力者が責任をもって記録してきたので、上部構造に目を向けるべきなのではないか。

「下部構造が上部構造を規定する」というテーゼは、例えば社会や文化のありようを価値判断して、政治と経済とどちらが重要なのかと考えることではありません。例えば、文章経国思想の支配により民衆の歴史が紡がれたとして、そうした立場を支配層、貴族、官…

先生は、「マルクスは政治をしたら軍事的になる」と仰っていましたが、日本にもその傾向があります。この間、池袋駅で「明治天皇の世の中に戻そう!」と街頭演説している団体をみました。マルクス主義では…とビックリしました。

うーん、大きな誤解です。その集団は、単なるヘイト・スピーチの集団か、大日本帝国へ回帰しようとする極右の政治集団でしょう。マルクスは、プロレタリアート独裁による共産主義的政治体制を志向していましたので、天皇制は早急に打倒すべき古代的、もしく…

革命イコール暴力的という考え方は、どこから生まれたのでしょうか?

「マルクス本人とは友だちになりたくない」「マルクス自身が国家を樹立したら、専制的になる」とお話ししましたが、実はマルクスは、共産主義国家を実現するためには、暴力革命とプロレタリアート独裁(しかも中央集権)が必要であると考えていました。それ…

美濃部達吉の天皇機関説が、大正デモクラシー期に至るまで日本法曹界の通説であったということは、とても驚きました。なぜ、これほどまで天皇が神格化されていた時代に、機関説が認められていたのでしょうか?

天皇機関説は、国家を法人とみて、天皇はそれを運営する機関=オルガンであると位置づけるものです。天皇大権を認めた大日本帝国憲法自体が、その権能を規定している点で立憲主義に則っており、支配の正当性には神話を置きながらも、その神聖性を無制限な権…

中国や韓国からすると、日本の首相が靖国神社を参拝するということは侵略戦争を起こした人物を肯定しているのと同じだ、日本は戦争に対して反省していないというが、戦争を肯定しているのは中国、韓国だろうと思う。軍事費を増やしたり、積極的に戦争を意識していると思う。

困りました、これまでこちらが講義でしてきた話を、8割方聞いてくれていなかったのでしょうか。私も中国や韓国の政治的な駆け引きを100%肯定しているわけではありませんが、慰安婦問題にしろ徴用工問題にしろ歴史認識問題にしろ、彼らが日本に対して主張し…

大正デモクラシーが続いていたら戦争はなかったかもしれない、と仰っていましたが、その場合、皇国史観にあたるものとしては何が考えられますか?

まず、同時期のドイツにおいて、ワイマール憲法に基づく民主的な体制からナチスが生まれてくることを考えても、世界恐慌からの復帰のために強固なナショナリズムが志向されることは、当時ひとつの必然だったのかもしれません。日本ではさらに関東大震災が重…

ヨーロッパでキリスト教、ユダヤ教、イスラム教などが発生し爆発的に広がったのに対し、東アジアではあまり一神教の概念自体が生じなかったのではないか、と思います。それはなぜだったのでしょうか?

身も蓋もない云い方になってしまうのですが、実は、現在の宗教学では、一神教/多神教というカテゴライズの仕方自体に疑問が提示されています。例えば、日本古代国家の神話的世界観では、皇室の祖先神=アマテラスを中心とした天神のパンテオンが高天の原に…

なぜ日本は昔、「瑞穂の国」と呼ばれていたのですか。

「豊葦原瑞穂国」とは、豊かな葦原の生い茂る、瑞々しい稲穂の稔る国、という意味です。弥生時代以来、列島社会における権力の伸張は、灌漑稲作の展開とともにありました。これから行われる、天皇の即位祭儀としての大嘗祭も、稲作を前提として成立していま…

マルクス主義が入って来たことで、具体的によい影響はあったのでしょうか。

歴史学の観点からいいますと、それまでの皇国史観が天皇中心の歴史観、すなわち支配者の視点による歴史観であったのに対し、マルクス主義歴史観は一般の人々の視点から歴史を考えようとしました。国家によって編纂された、あるいは支配者層によって記録され…

マルクス主義の件ですが、なぜ歴史学において法則性が重視されるのでしょうか。〈繰り返す〉ことに何の意味があると考えられているのでしょう。 / 歴史における法則とはそもそも何でしょうか、どの程度まで許容されるものなのでしょうか。

詳しくは次回お話ししますが、マルクス主義歴史学(唯物史観)の重要な点は、社会・経済が別の形式へ展開してゆく仕組みを、厖大な歴史資料から明らかにし理論にまで高めた点です。マルクスはまず、歴史を人間の自由な意志や観念の展開のうえに位置づけてき…

現在ウサギは命の大切さを知る、というような名目で飼われていますが、戦前・戦中に毛皮・非常食用として飼育されていたなんて、衝撃を受けました。何か、転換の契機があったのでしょうか。 / 一般の家庭でも、ウサギの屠殺を行っていたのでしょうか。

それほど明確な契機はなかったと思いますが、しいていうならば「敗戦」でしょうね。戦前・戦中は、戦争継続の諸物資を確保するため、人間も含め、動物の素材化が著しく進んだ時代です。家族として大切に飼育されていた、犬や猫も供出されてゆきました。各地…

樺太でキツネ養殖を行っていたのは国営ではなく、個人が多かったと仰っていました。そののち、全国に養殖施設が拡大すると、利益を得たい者による独占的な動きなどはなかったのでしょうか?

残念ながら、まだそのあたりの趨勢は詳しく調査していません。ただし、各地域ごとに会社や組合ができ、それらが養殖の知識・技術を詳述した書物や情報交換の雑誌を創刊していたところからすれば、競合してつぶし合うというより、団結して発展してゆこうとす…